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世界標準の経営理論(第41章, 終章 pp764-803)

【要約】

 理論とはそれ単体で存在していても真に価値を発揮することはない。理論が真に価値を持つためには、理論を現実と照らし合わせ検証する必要がある。逆に現実の現象を注意深く観察して、新たな理論を浮かび上がらせる必要があるのだ。こうした理論を実証するための分析方法はいくらかある。その実証分析のプロセスを知ることは、一般のビジネスパーソンにおいてもとりわけ重要性を増してくる。すでに一部の企業でその取り組みが広がっていることもそうだが、特に我々が普段から「実証分析のようなこと」を実践しているからに他ならない。そして今はその実証分析の入り口に立ちやすくなっているのだ。統計的な分析であれば、豊富なアーカイバルデータの蓄積がある。質問調査票の作成は容易になっている。集めたデータを統計解析してくれる簡易的なツールもある。事例研究でも録音や撮影はスマートフォンでできる。こうすることで聞き漏らしを減らすことができるだろう。このように我々が実証分析を行うハードルは間違いなく低くなっているといえる。これらを利用しない理由はない。

 本書には目的と狙いが明確に存在している。目的はもちろん経営学の主要理論を各ディシプリンにまたがって体系的に解説することである。一方、本書における狙いとはビジネスの現場で活躍するビジネスパーソンの方に、経営理論を「思考の軸」として活用してもらうことである。所謂理論ドリブンの思考を身に着けることである。具体的に本書に挙げられた経営理論を思考の軸にして活用する視座は三つある。一つ目は、真の意味で「経営理論」は存在しないということである。経営理論はあくまで他のディシプリンを借りているに過ぎないからである。これ以上経営理論について知見を深めるためには経営理論を放棄することなのだ。二つ目は、経営理論を深く知るためにこの本以上の経営学書はないということである。先ほども述べた通り経営理論は借り物であり、深めるためには各ディシプリンについて深めて行くことが必要になるだろう。そして三つめは、経営理論を信じてはならないということである。理論はあくまで思考の軸に過ぎないからである。考えるためには軸が必要である。その軸は決して「答え」ではない。軸は思考をクリアにする羅針盤の様なものである。経営理論は数多ありえる思考の軸の一つに過ぎないのである。だからこそ軸、畢竟経営理論を「答え」として信じてはいけないのである。それを基に考え続ける必要があるのだ。

【ディスカッション】

 今回は本書のP,796、最終節のタイトルにもなっている「思考の解放」について議論した。本書では経営理論を思考の軸にして議論を重ねることで思考の解放がなされると著述されている。しかし、そもそも「思考の解放」とは何なのかについて特に言及されているわけではない。では「思考の解放」とは何なのだろうか。そんな素朴な疑問に端を発したディスカッションである。

 今回のディスカッションは実証分析という呈をなしている。少なくともそのように設計した。実際に本書でいわれるように「経営理論を思考の軸にして様々な人たちと共に、現実のビジネスについて議論する」といったことを通して本当に思考は解放されるのかについて、ゼミのディスカッションの場を借りてそれを実証しようとしたのである。このようにした理由として、「思考の解放」が何かについて考えるより、実際に参加する成員が「思考の解放」を体感する方がより有益であると考えたからである。また、体感すれば「思考の解放」が何か自ずと理解できると考えたからである。実証するために我々なりに「思考の解放」を定義して判断基準にする必要がある。そこで、今回はは二つの軸を用意した。一つ目は、インプットされた情報が整理されていること。整理されていれば、現実のビジネスに応用してアウトプットができると考えた。二つ目が、固定観念に縛られないということである。経験則などではなく、経営理論を軸に考えることが、まさに「解放」であると考えたからである。

 実際にディスカッションするために、便宜上軸となる経営理論を各ディシプリンから一つずつ抽出した。具体的には、7章取引費用理論、18章リーダーシップの理論、23章センスメイキング理論、27章ソーシャル・キャピタル理論、これらを採用して参加する学生に最低一つ事前に読んでおいてもらった。次に実際に話し合う現実のビジネスは現存する「日本電気株式会社(以下NEC)」を基に「株式会社ABC」という会社を用意した。基本的に使用したデータは日本電気株式会社の情報を利用したので詳しくはそちらを参照していただきたい。ちなみに名前を変えて提示した理由として、現実のNECの状態等に引っ張られずフラットな意見を引き出したかったからである。この企業のデータを基に「2020年コロナ禍における企業の取るべき戦術」について話し合ってもらった。そのために具体的な戦略として「新規事業を立ち上げること」を上げ、実際に立ち上げの仕方やその事業の運営や構成などについて話し合ってもらった。このマクロとミクロの視点における具体的な方便が戦術にあたるものだ。そして参加する成員はあくまでこの新規事業部の部長というある程度裁量権を持った立場から意見してもらった。そうすることで、多くの意見を引き出そうとした。

 今回のディスカッションでは、新規事業の立ち上げの仕方というマクロ的な視点、立ち上げた後の具体駅な運営方法やメンバーの選定やリーダーについてなどよりミクロな視点、これら二つの視点について話あってもらった。
 
 まず、マクロ的な視点として出た意見では新規事業の扱う製品や技術は自前で行うという意見が出た。大手IT会社ということ、生体認証といった特有の強みを保有していることから、自社で行える能力があるので特段外部に頼る必要はないとの判断である。一方、実際に使う顧客のホテル業界などの意見を聞くことなど外部の声については、取引費用理論を基に自社ですべて扱うには大きな取引コストがかかるので外部のネットワークを利用するべきであるという意見が出た。

 一方、ミクロ視点の中でとりわけ白熱したのが、少数精鋭で行うかたくさんの人的リソースと足並みをそろえて進めていくかである。後者はいわば人海戦術のように聞こえるが、大企業ならではの利点でもある。しかし、リーダーが統率を取れない、とりわけ重要となるビジョンの共有ができない、スピード感が損なわれるといったデメリットも指摘された。それに対して前者では、ビジョンの共有やスピード感が重要であるという。スピードとビジョンの共有は重要であり、センスメイキング理論やリーダーシップの理論を基に意見が展開された。また、事業部間の協業という観点から、ソーシャル・キャピタル理論でいわれるように高密度のメットワークの形成が必要であり、IT業界において高密度のネットワークを作ってその中で知見を共有するべきという意見が出た。

【まとめ】

 今回のディスカッションではあえてIT業界の大企業を扱った。日本の大企業の多くは成熟しきっており、とりわけ重要となるのがイノベーションの創出である。そのために多くの大企業で新規事業を作ることや、それを斡旋する制度を導入している。しかし、多くの大企業でそれがうまく機能していないことは本書でも言及されている。そこで特に問題となるのが、新規事業を立ち上げた後どうするかであると考えている。そのため今回のディスカッションでも、どちらかというとミクロ的な視点に重点を置くために時間を割いた。実際に今回のディスカッションから重要となる示唆は二つあったと考えられる。一つ目は、スピードとビジョンである。ビジョンの共有ができていることは成員の意思の疎通において重要であり、大企業であってもまずは少数精鋭で進めることの重要性が示唆された。二つ目が、他事業との連携である。大企業ならではの利点として技術力が高いことであるが、それぞれの事業部が独立しているばかりにその既存の知が活かされないのである。今回のディスカッションで、センスメイキング理論の視点、ソーシャル・キャピタル理論の視点からそれの重要性が説かれ、実際に高密度のネットワークの形成が必要である。ただし、今回のディスカッションではその際のリーダーシップの重要性や、事業部間の取引費用の低減についてあまり言及されなかった。これは今後特に実務的に求められる視点であろう。

 ところで実際に「思考の解放」はできていたのだろうか。我々の見解では達成できていたと考えられる。経営理論、とりわけディシプリンという多くの学生にとって異質であったものがしっかりセンスメーキングされ整理された上で、それを基に意見を出していたので我々の「思考の解放」の定義においては、達成できていたと考えられる。今後は今回扱った経営理論だけでなく他にも興味のある経営理論について理解を深めて、ビジネス等について、「解釈」または「センスメーキング」していくことが求められるだろう。

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