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中小企業のオープンイノベーションを促進する経済特別区域

 竹居・佐伯・長江(2019)によると、外部の技術も活かしてイノベーションを生み出そうとするオープンイノベーション(以下、OI)という動きが日本でも強まってきている。なぜなら、市場ニーズがめまぐるしく変化したり、デジタル技術が発展したりしているからである。もはや自前の技術だけでは社会にインパクトを与えるようなイノベーションを起こせない、つまり既存技術だけでは戦えない危機感があるという。ゆえに、開発の時間短縮やコスト削減を狙ってOIに着手しているのである。

 竹居・佐伯・長江(2019)では、OIを成功させるために必要なポイントが4点挙げられている。1点目が強力な信頼関係である。開発が行き詰っても、相手を信頼していることで開発を続けることができる。2点目が自ら情報開示することである。そうすることで社外の人々を巻き込むことができる。3点目が契約上手になることである。それによってリスクを最小化できる。そして4点目は明確なゴール設定である。方向性を見失わず、ぶれずに開発を続けることが可能となる。

 上記のようにOIを成功させるポイントが挙げられているにもかかわらず、日本のOIは成功例が少ない。ではなぜ日本のOIは促進されていないのだろうか。私は、上記のポイントがOIに関する提携を始めた後に直面する課題であり、OIに関する提携を始める前に直面する課題(以下、提携前の課題)について指摘していないからだと考える。提携前の課題を乗り越えないと提携後の課題は現れない。したがってまずは提携前の課題を解決すべきである。また提携前の課題でも、大企業と中小企業の課題とでは、課題解決へのアプローチが異なる。大企業の提携前の課題は自社の経営努力で解決できる一方で、中小企業の課題は自社のみでは解決しがたいと考える。よって中小企業の課題はより深刻である。

 OIの提携可能性を高めるためには、広く企業や大学から探索されたり探索したりする必要があるが、以下の2点の課題によって中小企業のOIの提携可能性は低まる。1点目は技術の認知度である。大企業は優れた技術を持っていれば、認知度によりパートナー探しが容易である。一方で中小企業は限られた相手との協力関係を築いていることが多く(米倉, 清水, 2015)、 技術を広く認知させることに慣れていない。そのため、ほかの企業への技術の認知度を高めることが難しい。2点目は資金力である。OIのパートナー企業を探索するにはコストがかかるが、中小企業の資金力は弱い。それゆえOIに回せる資金が少なく、OI促進の阻害要因となる。これら2点の課題により、中小企業がOIのパートナー企業として探索されにくく、またパートナー企業を探索しにくくなる。ゆえにOIの提携はうまくいかないといえる。したがって中小企業の技術の認知度や資金力といった課題を解決する必要がある。

 そこで私は、政府によるOIに意欲のある中小企業が優遇される経済特別区域(以下、経済特区)を、神奈川県や兵庫県に創出することを提案する。中小企業に対する優遇とは、法人税の軽減やOIに対する助成金を指しており、選定された地区にオフィス等を構えていなかった企業に対しては、移転にかかる費用を軽減させる。

 まず政府が対策をすべき理由は、日本の製品・サービスが淘汰されることを防ぐためである。自前主義のイノベーションのみでは変化の激しい時代に追いつけないため、日本の製品・サービスが海外の製品・サービスに淘汰されてしまう可能性がある。そのような状況下では、法人税などの歳入が減少してしまう。

 次に本提案では、経済特区として人口密集地以外、かつ資金力のある都市部に近い地区を選定すべきである。人口密集地以外を指定する理由は2点ある。1点目は本提案の効果である。人口密集地では企業が群雄割拠しており、経済特区のプレゼンスが弱くなってしまう。それにより経済特区の外部に位置する企業との、OIに関する提携可能性が低くなるからだ。2点目は利用可能な土地の面積である。経済特区に多くの中小企業を招き入れるためにはある程度の土地が必要であるが、人口密集地は利用可能な土地の面積が狭い。以上の理由から、人口密集地は本提案の候補地から除外せざるを得ない。次に資金力のある地区を指定する理由は、経済特区に利用する土地を用意したり経済特区を運営したりするために、莫大な資金を必要とするにもかかわらず、税金の優遇などにより当分は税収が見込めないからである。また都市部に近いと、そこに構える企業が経済特区に訪問しやすく、さらに中小企業が経済特区から都市部の企業や大学に訪問しやすくなるため望ましい。神奈川県や兵庫県は、東京や大阪のような人口密集地でない。さらに総務省統計局(2020)によると、平成28年度の都道府県別歳入の順位で、神奈川県が6位、兵庫県が7位であることから、資金力があるといえる。加えて多くの企業がオフィスを構える東京や大阪から比較的近い。したがって経済特区として望ましい。

 本提案のメリットは3点ある。1点目は中小企業がOIのパートナー企業として探索されやすくなる点である。OIに意欲のある中小企業が集中することで、大企業などがこの経済特区の中から中小企業を探すことが可能となり、参画している中小企業は探索されやすくなる。2点目は中小企業の資金に余裕が生じる点である。助成金や税の優遇によって、中小企業のパートナー企業探しのための資金が、研究開発にも回せる。3点目が中小企業同士でのOIが促進される可能性が高まる点である。Chesbrough, Vanhaverbeke, and West (2006) によると、イノベーションのネットワークは地理的近接性によって拡大するため、OIは地理的クラスター内のほうがより簡単に実現できるという。さらにこの点は、竹居・佐伯・長江(2019)の挙げていたポイントのうち2点の解決にもつながる。1点目は密なコミュニケーションである。企業同士の距離の近さにより、単純接触効果が生じる。単純接触効果とは、ある対象への接触が反復するごとに、その対象への好感度や印象が高まることを示す(生駒, 2005)。この経済特区にはOIに関心のある企業が集まっているため、ほかの企業との出会いを模索している企業が多いと考えられる。集合することで企業同士の密なコミュニケーションにつながるのである。2点目は情報開示することである。企業同士の密なコミュニケーションが信頼関係を育み、相手企業との信頼関係は情報開示に対する不安感を軽減させる。それにより情報開示へのハードルが低くなる。実際にDyer and Chu (2003)によると、二企業間の信頼関係は相互の情報共有を促し、特に日本企業においてその傾向は強かったという。

 ただし中小企業が急にオフィスなどを移転することに関して、短期的にはデメリットもある。例えば移転する際の費用やそれまで関係を構築していた企業や顧客との距離が生じてしまう点である。しかし移転にかかる費用は助成金によって軽減されるため、資金面での移転のハードルは低い。また移転をすることにより税金面で優遇されたり、移転先でOIのパートナーを見つけたり、さらに大企業などから探索されやすくなったりとメリットは大きい。長期的な視点で見れば競争力の向上やその地区での新たな関係の構築につながる。そのため多くの中小企業にとって、メリットがデメリットを大きく上回ると考える。

 本文では中小企業のOIに関する提携前の課題を解決するために、OIに意欲のある中小企業が集合する経済特区を創設するという提案をした。OIでどれだけの価値を得られるかは知識の深さによっても決まり(Chesbrough, Vanhaverbeke, & West, 2006)、また中小企業は特定領域で深い知識を持っていることが多い(米倉, 2015)。そのため中小企業のOIによる日本の経済や企業の競争力への価値は大きく、それゆえ中小企業の技術はOIにとって重要である。したがって日本の中小企業のOIを促進するためには、中小企業の技術の認知度や資金力といった課題を解決する経済特区が必要なのだ。

【参考文献】
Chesbrough, H., Vanhaverbeke, W., & West, J. (2006). Open innovation: Researching a new paradigm. Oxford university press. 邦訳, 長尾高弘 (2008)『オープンイノベーション―組織を超えたネットワークが成長を加速する』英治出版.
Dyer, J. H., & Chu, W. (2003). The Role of Trustworthiness in Reducing Transaction Costs and Improving Performance: Empirical Evidence from the United States, Japan, and Korea, Organizations science, 14(1), 57-68.
生駒忍 (2005)「潜在記憶現象としての単純接触効果」『認知心理研究』3(1), 113-131.
総務省統計局 (2020) 『第六十九回日本統計年鑑』日本統計協会.
竹居智久, 佐伯真也, 長江優子 (2019) 「もう失敗させない オープンイノベーション」 『日経ビジネス』 1999, 24-41.
米倉誠一郎, 清水洋 (2015)『オープン・イノベーションのマネジメント』有斐閣.

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