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高級ホテルヒルトンのおもてなしのデジタル化

 北西(2018)によると、米国の大手ホテル会社ヒルトンが、デジタル技術を生かした新たな接客を日本のホテルで開始した。スマホのアプリを使うことで顧客がフロントでのチェックインやチェックアウトの手続きを簡単に済ますことができたり、部屋の設備を操作できるという仕組みである。つまり、ホテルの従業員が面と向かってもてなすのではなく、スマホを用いて間接的にもてなすということである。この仕組みによるホテル側のメリットは、スマホを介して宿泊客とつながることで、顧客ごとにきめ細やかなマーケティングが可能になるほか、フロント業務の軽減化といったものが挙げられる。

 北西(2018)によると、ヒルトンはこのようなスマホによる「おもてなし」で、競合との違いを打ち出そうとしている。では、ヒルトンはスマホによるおもてなしで本当に競合との差別化を図れるのだろうか。

 私は、スマホによるおもてなしは他のホテルとの差別化に繋がると考える。その理由は、現在深刻な人手不足に陥っているホテル業界において、スマホによるおもてなしは業務を効率化し、他社が行えていない違った価値の提供を可能にすると考えるからである。

 具体的には、スマホによるおもてなしを行うことで、ホテルでの2つの業務を効率化できると考える。まず、1つ目はフロントでのチェックイン手続きの効率化である。ホテルでのチェックインの際はフロントで必要事項の記入を行わなければならない。宿泊客は面倒さを感じ、また、従業員は記入する間手持ち無沙汰なこともある。さらに、複数人の宿泊客に対応するためにフロントには多くの従業員が配置されているが、宿泊客が並んでいなければ人員余剰のことも少なくなかった。しかし、宿泊客はヒルトンのアプリを用いれば、事前にチェックイン手続きが可能になる(ヒルトン, 2019)ので、フロントでの業務は事前に入力されていた情報の確認作業だけになる。したがって宿泊客がチェックインにかける時間を減少させることができるだけでなく、従業員の作業時間も短くなり、配置人数も減らせるようになる。2つ目に、清掃業務の効率化である。これまで清掃員は事前に部屋内部の状況がわからないため、掃除をする際に宿泊客が部屋にいるかフロントに確認を取っていた。これにより、何回もフロントに確認する手間や、部屋に人がいるかどうかわからないために作業が進まないなどの問題が生じていた。しかし、このアプリの情報を活用することによって宿泊客が今部屋に滞在しているのかわかるので、フロントに確認する作業がなくなる。したがって作業時間が短縮するのだ。

 このように人員や時間の効率化をうまく行うことができれば、今まで行えていなかったきめ細やかな接客という部分に注力することが可能になる。では、余剰人員を用いて競合他社とは違った価値を提供するにはどうすれば良いだろうか。

 私は、効率化によって余剰になった人員を用いてバトラーサービスを行うことを提案したい。バトラーとは、宿泊客をチェックインからチェックアウトまでサポートするのが役割であり、宿泊客一人一人に専属で付いて身の回りの世話から些細な要望に応えるのがその仕事である。よくコンシェルジュと混同されることもあるが、コンシェルジュは定位置に配置され宿泊客の案内やサポートをする仕事であり、バトラーはお客様に付き添い自ら積極的にもてなす仕事である。ヒルトンでは以前にも「お花見」や「ビアガーデン」といったイベントの際にもバトラー付きのVIPラウンジというものを提供してきたが、バトラーがつくのは特別なイベントの際だけであった。そこで、スマホのアプリ等デジタル化を用いたバトラーサービスを提供することで、宿泊客に対してよりきめ細やかなおもてなしができると考える。

 バトラーに求められるものは、宿泊客が求めていることを先読みし、柔軟に対応し接客することである。高度な技術が求められ、離職率の高いホテル業界(厚生労働省, 2018)では、なかなかそういった人材を育てることは難しい。しかし、ヒルトンが進めているデジタル化によって宿泊客の詳細なデータを蓄積・管理することができれば、高度な技術を必要とするバトラーサービスを補完し、提供することができるのではないだろうか。具体的には、ヒルトンが提供しているアプリを用いて、宿泊客の食事、寝具の素材などの嗜好や宿泊する際のスケジュール調整などの要望といったデータを集めることが可能になる。そして、今までは一人の宿泊客に対し何回も同じ担当者が付くことによって得られていた情報を、担当者が異なる場合でも容易に共有することが可能になり、従業員間の情報共有にかかる情報伝達コストを抑えることができる。このように、おもてなしのデジタル化によってコストを抑え、人員や情報をうまく利用することで、専門性の高いバトラーという役職を専門性の高くないスタッフでも担うことができるようになる。そうすることで、宿泊客に対し比較的安い価格でバトラーサービスを提供していくことができるようになるのだ。

 今後ホテルを含む宿泊業界全体では、オリンピックや観光客の増加により、さらに市場の拡大が見込まれる。しかし、ホテル業界では人手不足の問題を抱えているため、競合のホテルとの差別化が難しい。その中でヒルトンは独自のデジタル化を用いた戦略により、人手不足の現状の中でも、業務の効率化を行い、得られた宿泊客の情報の共有、活用をすることで、よりきめ細やかなおもてなしを提供できるようになる。レッドオーシャンとなった市場で、業務効率化を行い他社とは違った価値提供をすることが可能になれば、既存顧客の維持に加え、さらなる顧客を獲得できるようになると私は考える。

【参考文献】
ヒルトン (2017)「ヒルトンDigital Key(デジタルキー)」2019年6月24日閲覧. https://hiltonhonors3.hilton.com/ja_JP/hhonors-mobile-app/digital-key.html
北西厚一 (2018) 「スマホで『おもてなし』の勝算」『日経ビジネス』 1958, 18.
厚生労働省(2018)「平成30年雇用動向調査結果」2019年9月12日閲覧. https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/koyou/doukou/19-2/dl/gaikyou.pdf

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