<< 起業の科学 Chapter3-2・Chapter3-3 | main | 起業の科学 Chapter4-1〜4-4 >>

飲食店のサブスクリプションモデルにおける顧客満足度の安定化

 広田(2018)によると、外食業界でサブスクリプションと呼ばれる月ごとの定額制サービスを提供する企業が増えてきている。特に、来店頻度の高い業態であるカフェで導入の動きが目立つ。しかし、それ以外の業態でもサブスクリプション導入の流れは広がってきている。2017年秋には、フードリヴァンプが運営するラーメン店「野郎ラーメン」でもサブスクリプション制が導入された。サブスクリプションを飲食店が導入するメリットとして、広田(2018)は繰り返し店に訪れる優良顧客を囲い込めることを挙げ、さらに、サブスクリプションが軌道に乗れば宣伝費を抑えて安定した集客が可能になるという。

 しかし、サブスクリプションには解約の脅威が常に存在する。谷守(2017)ではサブスクリプションはレピュテーションの毀損や顧客の移り気による解約リスクが高いと述べられている。顧客がサブスクリプションを契約する前に感じたそのサービスへの価値とサブスクリプションを使い続けることで感じられる価値とは別である。顧客はそのサービスに価値を感じサブスクリプションを契約するが、その価値を顧客がずっと感じ続けてくれるとは限らない。飲食店側がその価値を維持する努力をしなければ、そのサービスに対する魅力が薄れ、顧客が価値を感じることができなくなってしまうだろう。そうなると顧客はサブスクリプションを解約してしまうに違いない。

 また、サブスクリプションは先払い制であり顧客は最初に大きい金額を払うため、レピュテーションの毀損が起こりやすい。通常の飲食店であれば一回の食事に対して一回分の値段しか払わない。そのため、顧客がその価格分の効用を得られなかったと感じることは少ないだろう。一方、サブスクリプションの場合はお金を月ごとにまとめて払う。そのため、支払う回数は少ないが一度に払う料金が大きくなる。一度に払う料金が大きくなれば顧客は「高いお金を払っているのだから、少しサービスを加えてほしい」と感じるようになるだろう。そうなると、顧客の効用を満たすために飲食店は価格以上のサービスを提供しなければならなくなる。しかし、飲食店側が常に価格分以上のサービスを顧客に提供するのは難しい。なぜなら、加えてほしいサービスは顧客によって異なり、それらすべてを飲食店側が把握することは困難だからである。この状況を放っておくとサブスクリプションを契約した顧客が価格分の効用を得られないと感じることが多くなり、顧客の満足度はどんどん低下していく。そうなると顧客の不満がたまっていき、その不満が口コミやSNSなどで広まってしまうので、結果的にその店のレピュテーションが毀損されてしまう。以上のことから広田(2018)が挙げるサブスクリプションのメリットを飲食店が享受するには、顧客が安定的に満足を感じられる店づくりをする必要がある。

 だが、サブスクリプションを導入していない普通の飲食店でも、もちろん顧客満足度を維持することは求められる。では、飲食店がサブスクリプションを導入した時と導入しない時では顧客の満足度を維持する方法はどのように違うのだろうか。

 サブスクリプションを導入していない飲食店の場合、顧客が一回の来店で満足を感じても、次にまた来店するという保証はどこにもない。そのため、通常の飲食店は一回の来店でどれだけ顧客の満足度を高められるかを考える必要がある。一方で、サブスクリプションを導入している飲食店の場合、顧客は少なくとも1か月の間はサブスクリプションを契約して費用を払っているので、その費用を回収するために継続的に来店するだろう。そのためそのような飲食店は、一度しか来店していない顧客の満足度よりも、サブスクリプションを継続してくれる顧客の満足度に目を向ける必要がある。

 では、飲食店において顧客は具体的にどのようなことに不満を感じているのだろうか。日本経済産業新聞(2018)によると、通常の飲食店の場合、「この列の長さなら30分程度」というように、過去の経験に基づいて待ち時間を推定しているが、実際は予想より早く行列が進んだり、逆に時間がかかったりして、伝えている時間とのズレが生まれていた。その結果、行列待ちの正確な時間が把握できず、顧客の不満がたまるほか、店員も適切な対応ができないなど課題があったと述べられている。

 私はこのような不満がサブスクリプションを導入した飲食店においてより顕著に表れると考える。なぜなら、サブスクリプションを契約した顧客は来店することが日常の一部になっていて、初めて来店する顧客よりも待つことに不満を持つからである。初めて来店する顧客であれば、たとえ店が混んでいてずいぶん待たされたとしても、提供された料理がおいしかったり、良いサービスを受けたりすると「待った甲斐があった」と感じ、不満は抱かないだろう。それどころか、むしろ満足を感じることもあるかもしれない。しかし、サブスクリプションを契約した顧客というのは週に何回もその店を訪れるような顧客である。そのような顧客は来店時に予想外に混雑していたり、店には入れてもいつもより商品を提供するスピードが遅かったりすると、通常の顧客よりも不満を感じやすい。頻繁に来店する顧客は待たずに店に入れることが当たり前になっており、混雑していて待たされても「待った甲斐があった」とは感じず、ただいつもより店に入るのに時間が掛かったという不満を感じるだけなのである。

 それでは飲食店でサブスクリプションを導入した際、そのような不満を解消し、顧客の満足度を維持するにはどうすればよいのだろうか。私はサブスクリプションを導入した飲食店が運用しているアプリ内で、サブスクリプションを契約した顧客がその店の混雑状況や待ち時間を把握できるシステムの導入を提案したい。なぜなら、顧客は店がどの程度混雑しているのかを来店前に知れることで、「店に行っても席がない」という状況を回避できるからである。嶋田、多比良、原、新井(2013)によると、顧客に待ち時間を伝達することで顧客満足度の安定化を図れると述べている。そのため、サブスクリプションを契約した顧客が店の混雑状況や待ち時間をその店のアプリで来店前に知ることができれば、事前の想定と実際の状況のギャップが少なくなり、顧客満足度の安定化いうものが実現できるようになる。

 飲食店がサブスクリプションを導入しても、顧客の移り気やレピュテーションの毀損によって解約されてしまっては集客の安定は図れない。サブスクリプションで集客の安定を実現するためには契約した顧客の満足度を維持する必要がある。しかし、そのような顧客は、店に来ても混雑していて店に入れなかったり、サービスの提供が遅れたりするなどの影響で、いつもと同じようなサービスが受けられないと不満を感じてしまう。そのため、サブスクリプションを導入した飲食店が顧客満足度を維持するには、顧客が来店した際、常に普段と同じサービスを提供する必要がある。それが実現できれば、集客の安定というサブスクリプションのメリットを享受できるようになるのではないのだろうか。

〈参考文献〉
広田望(2018)「外食も『サブスクリプション』続々」『日経ビジネス』1944, 17.
日本経済産業新聞(2018)「監視カメラで待ち時間推定、キヤノン、行列の動き解析、混雑時、従業員にアラート。」『日本経済産業新聞』2018年4月10日.
谷守正行(2017)「サブスクリプションモデルの管理会計」『専修商学論集』105, 99-113 専修大学学会.
嶋田敏、多比良恵、原辰徳、新井民夫(2013)「サービス受注中の期待形成を考慮した待ち時間に対する顧客満足度の分析」『日本経営工学論文誌』64(3), 386-398, 日本経営工学会.

とみざわ(2年)



calendar
    123
45678910
11121314151617
18192021222324
25262728293031
<< August 2019 >>
selected entries
categories
archives
links
search this site.
others
mobile
qrcode
powered
無料ブログ作成サービス JUGEM