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たばこコミュニケーションの代わりとなるもの

 近年、飲食店や会社で全面禁煙を求める声が高まるなど、禁煙政策を巡る議論が盛り上がっている。五十嵐(2017)によると、たばこがもたらすデメリットは、経済的なものと疫学的なものの二つである。五十嵐氏の推計では、1人の喫煙者が禁煙すると、禁煙しなかった場合に比べて大幅な医療費削減とQALY(余命とQOLの双方への影響の評価を可能にするもの)の増大が見込めることが明らかになっている。以上のことから、五十嵐氏は、たばこ対策は財政と公衆衛生の双方の観点から優先されてしかるべき政策である、と述べている。

 私は、五十嵐氏のたばこ対策を優先すべきだ、という考えに賛成である。なぜなら、たばこは喫煙者本人のみでなく、私たち非喫煙者にも大きなデメリットとなるからだ。国立がん研究センター(2010)によると、受動喫煙による肺がんや虚血性心疾患により、国内で年間おおよそ6800人が死亡している。また、医療経済研究機構(2010)によると、喫煙者が一消費者として負担しきれずに属している共同体に負担させている経済的損失は、健康面、施設・環境面、労働力損失の3つの点において、1年間で総額約4兆3000億円にものぼる。しかし、これらの喫煙によるコストは、すべて喫煙率を下げることにより将来的に減少させることが可能なものである。

 現在、多くの企業がこのコストを抑えようと、全社禁煙へと進んでいる。星野リゾートグループでは、「喫煙者は採用しておりません」という採用サイトに掲載された文字が話題を呼んだ。代表の星野氏は、「全社禁煙を進めることで、作業効率、施設効率、職場環境の3つの要素において競争力を高めることができる」と述べている(星野グループ採用サイト)。また、規模や事業範囲が異なるようなその他の企業も、全社禁煙への取り組みを行っている。

 では、たばこにはメリットはないのだろうか。私は、たばこはデメリットだけではなく、メリットももたらしていると考える。松岡(2014)によると、喫煙者は「喫煙所内で他部門とのコミュニケーションが取れている」と実感していて、社内のヒエラルキーに関係なくたばこを吸うというだけで部門を超えたコミュニケーションが進んでいる、とされている。たばこを一本吸うのにかかる約5分という短い時間で、役職や年齢関係なく、非公式コミュニケーションを手軽にとれることが、たばこの唯一のメリットだと私は考える。普段話すことのないような人と対面でコミュニケーションがとれる喫煙所は、情報交換や意見交換の場となり、デスクでは出ないようなアイデアが生まれる貴重な機会となっている。では、たばこ以外でこの非公式コミュニケーションの機会を作ることはできないのだろうか。

 そこで私は、全社禁煙が進められ各フロアの喫煙所が撤去されることにより生まれる新たなスペースを、コミュニケーションスペースとして活用することを提案する。具体的には、喫煙タイムをエクササイズタイムに変えるということである。例えば、各フロアのスペースにフィットネス用のトランポリンを導入し、「トランポビクス」(日本トランポビクス協会ホームページ)を5分程度行う。「トランポビクス」とは、一人用の小さなトランポリンの上で行う運動で、地面や床の上で運動するよりも身体にかかる負担が軽減されるため、年齢・能力を問わず健康増進運動を楽しむことができる。大きな効果として、トランポビクスでの大きな上下運動が血液やリンパの流れを活発にするため、生活習慣病の予防・改善も期待されている。また、トランポリンは優れた運動効果をもっており、ランニングの1.7倍のカロリーを消費でき、五分程度跳ぶことで一キロのジョギングに相当する(jump oneホームページ)。日比野(1976)によると、トランポリンは老若男女すべての人を満足させる全身運動であることから、今日では職場でもレクリエーションとして取り入れられており、職場での発展も期待できる、とされている。共通のエクササイズをすることで、その楽しさや辛さから連帯感が生まれ、さらに普段話すことのないような人との会話の糸口になると考える。

 このように問題を解決することの更なるメリットは、以前までは非公式コミュニケーションをとる場が少なかった非喫煙者もその機会を得ることができる点だ。日本たばこ株式会社(2017)によると、2017年5月の時点で国内の喫煙者率は、男性で28.2%、女性で9.0%となっており、男女合計でも18.2%と低い。つまり、たばこによる非公式コミュニケーションの機会は、会社の約2割の人々のみしか得ることができないのである。それに比べてエクササイズはどうだろうか。株式会社インサイト(2009)によると、「運動することが好きですか」という質問に、「好き・どちらかというと好き」と答えた人は男性で70%、女性で49%、男女合計で59%ということが分かっている。また、「どちらともいえない」と答えた人を加えると、男女合計で79%にまで上り、喫煙者の4倍の人々が非公式コミュニケーションの機会を得ることができると考えられる。また、非喫煙者は身体にも悪影響を及ぼすたばこを高い壁に感じるだろうが、健康にも良いエクササイズならば運動嫌いな人々もあまり壁を感じず、「試してみよう」と思えるのではないか。

 20年ほど前は社内での喫煙は普通とされていて、全社禁煙など考えられなかったが、現在は多くの企業が禁煙対策に取り組んでいる。こういった変化はたばこのメリットである非公式コミュニケーションの機会を奪ってしまうこともあり、気づかぬうちに企業へ損失をもたらす危険をはらんでいる。しかし、たばこではなく誰でも行えるエクササイズで代替することで、喫煙所で行われていたコミュニケーションより健康的に、より多くの人が非公式コミュニケーションの機会を得ることができるだろう。これからの時代、様々な環境の遷移が非公式コミュニケーションの機会を奪うかもしれない。しかし、今あるその機会が失われないような代替案を模索することで、環境の遷移をプラスの力に変え、会社の更なる発展に繋げられるだろう。

【参考文献】
五十嵐中 (2017) 「財政と健康の双方に寄与、より積極的なたばこ対策を」 『日経ビジネス』 1896, 92-93. 2017年6月28日閲覧,
独立行政法人国立がん研究センター (2010) 「受動喫煙による死亡数の推計について」
2017年6月28日閲覧, http://www.ncc.go.jp/jp/information/pdf/20101021_tobacco.pdf
日比野朔郎 (1976) 「トランポリン運動の体育学側面からの考察()」 『京都府立大学学術報告(理学・生活科学)』 27, (B), 43-48 2017年7月5日閲覧, https://kpu.repo.nii.ac.jp/index.php?action=repository_action_common_download&item_id=5300&item_no=1&attribute_id=19&file_no=1&page_id=13&block_id=17
星野グループ採用サイト 2017年7月5日閲覧, http://recruit.hoshinoresort.com/tabacco/tabacco.html
医療経済研究機構 (2010) 「禁煙政策のありかたに関する研究 〜喫煙によるコスト推計〜 報告書」 2017年7月12日閲覧, https://www.ihep.jp/publications/report/search.php?dl=26&i=1
jump oneホームページ 2017年7月5日閲覧, https://www.jumpone.jp/
株式会社インサイト (2007) 「運動/スポーツについてのアンケート」2017年7月27
日閲覧, http://www.insearch.jp/sapporo/report/Report_090928.pdf
松岡利昌 (2014) 「理想の分煙環境を考えるvol.2」 『日経BPインフラ総合研究所リポート』 2017年7月27日閲覧, http://kenplatz.nikkeibp.co.jp/infra/pdf/bunen01.pdf日本たばこ株式会社 (2017) 「全国たばこ喫煙者率調査」 2017年7月27日閲覧, https://www.jti.co.jp/investors/library/press_releases/2017/0727_01.html
日本トランポビクス協会ホームページ 2017年7月27日閲覧, http://www.trampobics.jp/

くまざき(2年)