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少子化対策と託児推進の矛盾について

 現在日本の人口は約1億2000万人であるが、厚生労働省(2010)の推計から、2060年には9000万人に割りこむとされている。方野坂・青野(2017)によると、この人口減少で問題となるのが労働力不足の問題である。そのため様々な企業で労働力不足についての対策が迫られている。

 その1つの案として、青野氏は近年働く女性が増えていることから、女性が主に担うことの多い家事・育児は外部の力であるベビーシッターを活用すべきであると主張する。「男は仕事」という古い考えの人は今でも多く、青野氏はこの男性の意識の改革には時間がかかるという。それよりも、公費や補助金を投入し、安価な託児サービスを利用できるようにし、個人の利用負担を少なくすることで、家庭内の家事・育児が軽減され、少子化対策につながっていくのではないかと主張している。

 私は、少子化対策のためにベビーシッターのような外部の力を利用する、という青野氏の考えには賛成である。厚生労働省(2015)によると、有配偶女性(25〜44歳)の就業率は年々増加しており、平成26年には60%以上の有配偶女性が就業している。不安定な所得のため共働きせざるを得なくなっている夫婦が増え出産に踏み切れないために、出生率が低下しているのだ(加地,2009)。しかし、ベビーシッターを利用することで、女性の家事・育児の負担を少しでも減らすことができれば、女性が子どもを産み育てる余裕が出て、そしてそれが出生率の増加へとつながる。また、女
性が外で働きやすくなるので、現在問題となっている労働力不足を補うこともできると私は考える。

 このように家事・育児に外部の力を活用するにはお金がかかる。しかし、すべての家庭に外部の力を利用するためのお金を出す余裕があるわけではない。そこで国や自治体など公益資金による援助が必要となってくる。その資金の投入先として、2つのパターンがある。1つ目は資金がサービスを利用する側に投入される場合であり、2つ目は資金がサービスを行う側の方に投入される場合である。

 1つ目のパターンは、児童手当のように、サービスの利用援助を目的とした利用者側への資金の投入である。実際内閣府の子育て支援制度では、ベビーシッターを利用する側の金銭的負担を減らすことができるよう、サービス利用時に使うことができる割引券を配布している。利用者は国が指定した託児サービス所ならば、この割引券を使用することができる。この場合、確かに利用者側の金銭的負担は少なくなるであろう。

 しかし、私はこの資金の投入の仕方では少子化を止められないと考える。なぜなら、今後女性の社会進出が進み、子どもを預けたいという親が今より増えた場合、子どもを預かる側の人手がさらに足りなくなると考えるからである。資金があっても子どもを預ける場所がなければ、結局親は子どもを預けることができず、こうした不安から少子化はさらに加速するのではないだろうか。現在でも託児サービスを行う人の数が十分に足りているわけではない。厚生労働省(2015)によると、平成27年4月時点の保育所(1)待機児童数は、23,167人である。これは現在国が確認できている待機児童数であり、実際託児サービスを受けられていない子どもはもっと多くいる。託児サービスが充実しないと女性が子どもを産んでも働こうと思ったときに預けることが難しく、こうした不安が少子化をより進むと考える。

 ではどのように資金を投入すれば少子化対策につながるのであろうか。私はベビーシッターの人数を増やすことが必要だと考える。女性が今後さらに社会進出し、子どもを預ける人が増え、新たにサービスを利用しようとしても、ベビーシッターおよび保育に従事する人の数が十分ではないので、結局働くことができない。そこで人数を増やすべく、ベビーシッターの賃金を上げるために資金を投入していくべきであると考える。賃金を上げることで、多くの人にこの業界の魅力を感じてもらうためだ。

 全国保育サービス協会(2015)によると、2015年における1時間あたりのベビーシッターの賃金の平均は1,332円である。これは、私たち大学生がしているアルバイトの自給とほとんど変わらない。ベビーシッターは小さな命を直接的に預かるという点で責任の重い仕事であるにもかかわらず、十分な給料がもらえていないのである。

 実際、保育者の賃金を上げることで人材の確保に成功した例もある。千葉県船橋市では、保育士の人数を確保するために、2016年より市から保育士に対する金銭的支援を行い始めた。そのメニューは、「月々の家賃補助」、「修学資金の貸付」、そして船橋市が独自で行っている「ふなばし手当」の3つである。このふなばし手当とは、船橋市内の私立保育園、認定こども園、小規模保育事務所に勤務すると、給与の上乗せとして月額32,110円、期末手当71,460円(年間計456,780円)の手当が受けられる。この支援制度を導入した結果、船橋市は今まで集められなかった保育士の人材を確保することに成功した。

 このことから、賃金を上げることは業界に人を集めることにおいて即効性があったと言える。このように賃金を上げることで保育に従事する人が増えれば、今でも十分に需要を満たせておらず、今後さらに足りなくなるであろう保育に従事する人が増える。親が確実に子どもを預けられるようになることで、女性は安心して子どもを産み育てていこうと思え、出生率は上がる。こうして少子化対策につながっていくのである。

 ただ、このようなベビーシッターの賃金上昇のための補助金には、多くの税金を投入しなければならないと考えられる。日本は高齢化問題など様々な問題を抱えており、資金を必ずしも子どもや子育てのためだけに使えるわけではない。しかし、こうした厳しい状況でも少子化対策のために資金を投入している地域はある。例えば、福井県は都市部に比べ高齢者も多く、様々な財政的問題を抱えているが、子どものために資金を投入することを強く進めている。その結果、厚生労働省(2014)によると現在出生率は他県に比べ高い。また、福井県は25〜44歳の育児をしている女性の都道府県別有業率が全国2位と、高水準を保っている(総務省統計局,2012)。この福井県の対策のように、日本全体でも少子化対策を最優先に資金を投入することが必要である。

 このように少子化対策には、賃金を上げ、ベビーシッターの人数を確保することが必要である。そしてそのためには、国や自治体などが資金を援助していくことが重要となってくる。保育に従事する人の数を確保し、子どもを預かる側の供給が増えることで、親が子どもを産み育てていくことができ、出生率は上がる。また、女性が外へ出て働く余裕ができるため、今ある労働力不足の問題にも即効性があるといえるであろう。未来を担っていく子どもを増やすこと、子どもを育てやすい且つ子どもが育ちやすい環境を形成していくこと、またそれを支えるための親の負担を減らす援助をしていくことは、喫緊の課題である。

 (1)ここでいう保育所とは、2015年4月に施行した「子ども・子育て支援新制度」において新たに位置づけられた幼保連携型認定こども園などの特定教育・保育施設(幼保連携型認定こども園、幼稚園型認定こども園、地方裁量型認定こども園)と特定地域型保育事業(小規模保育事業、家庭的保育事業、事業所内保育事業、居宅訪問型保育事業)(うち2号・3号認定)の数値を含んだものとなる。

 
【参考文献】
船橋市 (2017) 「ふなっしーも応援!船橋市内の保育園で働きませんか?」 2017年7月5日閲覧. http://www.city.funabashi.lg.jp/kodomo/hoiku/010/p027165.html
加地大輔 (2009) 「少子化社会に対する女性の社会進出の重要性」2017年6月12日閲覧.
http://fourier.ec.kagawa-u.ac.jp/~tetsuta/jeps/no5/Kaji.pdf
方野坂真哉・青野慶久 (2017) 「少子化対策、私はこう向き合う」 『日経ビジネス』 1890, 16-17.
厚生労働省 (2010) 「日本の人口の推移」 2017年6月12日閲覧.
http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/hokabunya/shakaihoshou/dl/07.pdf
厚生労働省 (2014a) 「保育人材確保のための『魅力ある職場づくり』にむけて」 2017年6月26日閲覧. http://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-11601000-Shokugyouanteikyoku-Soumuka/0000057898.pdf
厚生労働省 (2014b) 「出生率の年次推移,出生順位別」 2017年8月23日閲覧. http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/nengai14/dl/h9.pdf
厚生労働省 (2015) 「保育所等関連状況取りまとめ(平成 27 年4月1日)」 2017年6月12日閲覧. http://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-11907000-Koyoukintoujidoukateikyoku-Hoikuka/0000098603.pdf
総務省統計局(2012) 「25〜44歳の育児をしている女性の都道府遠別有業率」 2017年8月23日閲覧. http://www.stat.go.jp/data/shugyou/topics/topi740.htm#ikuji 
全国保育サービス協会 (2015)「ベビーシッターアンケートデータ」 『データ集』 2017年6月12日閲覧. http://www.acsa.jp/images/babysitter-data2015.pdf

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