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シェフ型ビジネスにおける社内ベンチャーの有効性

 林(2016)によると、大手化学メーカーは自動車・電機メーカーなどの大口顧客の要望に応じた素材・技術を供給するスタンスをとるのが一般的であるが、三井化学は大量発注を見込みづらいベンチャー企業に自らアプローチをかけている。このように、三井化学が目指す戦略の転換は「農場型研究からシェフ型研究」への転換と言われている(林2016)。これは、樹脂やゴムなどの部品を開発するだけではなく、顧客との複数回のやりとりを行い、好みに合わせて改良し、提供することである。そして、三井化学は自ら企業にアプローチをかけて製品の開発や技術の提供を行い、一般の化学メーカーがあまり取引しない業界の相手が訪れる見本市に出展するなどの活動を行っている。
 
 私は、このように三井化学がベンチャー企業に自らアプローチをかけていく戦略には賛成である。その理由は2点ある。1点目はトップの強いリーダーシップ、2点目は今後発展が見込める市場を対象とした事業展開である。ベンチャー企業は大企業と比べると簡素な組織で意思決定が迅速に行われる(経済産業省2008)。このようなベンチャー企業のスピード感によって、シェフ型研究を行っている1つのプロジェクトに対する時間の削減が見込まれる。また、大企業は規模が大きい市場で事業を展開していることが多く、収益の見込みづらい規模が小さい市場では事業を展開しにくい。その点、ベンチャー企業は、規模の小さな市場でも収益を上げやすい。従って、三井化学にとってベンチャー企業と協同することは、規模は小さいが成長の見込まれるような市場において、仮に大企業が参入して来た際、競合他社よりも先に供給先としての権利を得やすくなると考える。

 また、ベンチャー企業の側から考えても、豊富な資源を保有する三井化学と組むことができれば、経営資源の不足というベンチャー企業の弱み(経済産業省2008)を解消することができる。さらに、林(2016)で挙げられているように、三井化学のシェフ型ビジネスは、顧客であるベンチャー企業の要望に応えて部品・製品開発を行うので、ベンチャー企業が抱えている技術面の問題を大企業の豊富な経営資源を用いて解決することができる。そして、三井化学と共同で開発することができれば、ベンチャー企業自身のブランドだけでなく、共同で開発した三井化学のブランドも用いることができる。このことにより、商品の信頼度を向上させることができ、商品を展開していく際にプラスに働くと考える。これらの理由から、ベンチャー企業も三井化学と共同で開発するメリットがあると考える。

 しかし、三井化学はベンチャー企業と組むことで、必ずしも安定的な収益を上げられるというわけではない。なぜならば、ベンチャー企業は大企業と比べて規模や生産高の面で劣るので、大口顧客のような安定した供給先には成りえないからである。では、三井化学はどのようにして収益を獲得していけなければならないのだろうか。

 そこで、私は三井化学がベンチャー企業だけではなく、大企業の社内ベンチャーに積極的にアプローチをかけていくことを提案したい。なぜなら、ベンチャー企業にない強みを社内ベンチャーが保持しているからである。ベンチャー企業にはない社内ベンチャーの強みとは、大企業の一部であることのブランド力、資源の豊富さ、研究開発の面でのリスクの小ささ(原山・氏家・出川2009)である。例を挙げると、大企業の社内ベンチャーはベンチャー企業よりも経営資源が豊富であり、このことは三井化学にとって有利に働くと考える。仮に共同開発した製品の需要が高まった時、ベンチャー企業では資金調達に時間がかかるが、大企業の社内ベンチャーであれば、迅速に投資を受け市場の需要に合わせて製品を生産できる可能性が高い。このことから、三井化学は社内ベンチャーと組むことで、ビジネスのチャンスを拡大できる可能性が高まるのではないだろうか。

 加えて、三井化学は大企業の社内ベンチャーと協同で研究・開発をすることで、単独のベンチャー企業と行うよりも、より多くの販売先を確保できる可能性が高まると考える。ベンチャー企業と開発を行った場合、販売先と成り得るのはベンチャー企業単独になることが多く、販売先を広げるのは困難だ。しかし、大企業の社内ベンチャーと開発を行った場合、開発した素材の販売先として、大企業の社内ベンチャーだけでなく、その大企業と取引をしている企業も販売先として見込むことができるのではないだろうか。これによって、シェフ型研究の問題である、収益の確保が困難である点を解決することができるだろう。

 そして、この提案は三井化学だけでなく開発系のメーカーにもメリットになると考えている。仮に、開発系のメーカーが安定した供給先を確保していたとしても、それは成長ではなく、顧客の維持にすぎない。企業が長期的に成長していくためには、新規事業で収益を確保していく仕組みを作っていかなければならないのである。私はその手段として、オープンイノベーションを活用することが適していると考える。なぜなら、イノベーションを起こすのに役に立つ知識は広く分散(Chesbrough,Vanhaverbeke,West 2008)しており、社外にあるその知識を利用することはイノベーションを起こして新規事業を生み出していく上で有効であるからである。

 このように、自社だけでなく社外にも重きを置いている点はシェフ型ビジネスとオープンイノベーションの考え方双方が類似している。しかし、シェフ型ビジネスはオープンイノベーションと比べて自らアプローチをする点で積極的である。自ら社外にアプローチをしていくことで、受け身の姿勢でいるよりも多くの社外のリソースを活用する機会が増加し、新規事業の獲得につながると考える。そのため、シェフ型ビジネスを活用することは、三井化学だけでなく開発系のメーカーにとっても企業の長期的な成長と新規事業の獲得の点で有効な手段になるだろう。実際に、日本企業は今、「外」に活路を求め、従来の殻を打ち破る必要がある(日本経済新聞 2014)と言われており、研究解発にもかつてないほどのスピードが求められている(星野 2015)。今後、開発系のメーカーにとって、資源が豊富でスピード感溢れる大企業の社内ベンチャーへシェフ型ビジネスの様に自ら積極的にアプローチをしていくことが必要になってくるのではないだろうか。

【参考文献】
原山優子,氏家豊,出川通 (2009) 『産業革新の源泉:ベンチャー企業が駆動するイノベーション・エコシステム』白桃書房
林英樹 (2016) 「三井科学 素材を「発明の友」に」『日経ビジネス』1850, 58-62
Henry Chesbrough,Wim Vanhaverbeke,Joel West (2006).Open Innovation : Reserching a New Paradigm 邦訳,長尾高弘 (2008) 『オープンイノベーション;組織を超えたネットワークが成長を加速する』 英治出版
星野達也 (2015) 「研究開発の自前主義に訪れた限界」 『日経テクノロジーonline』
http://techon.nikkeibp.co.jp/article/COLUMN/20150701/425842/?P=1 2017年4月5日閲覧
経済産業省(2008)「ベンチャー企業と既存企業<現状と課題>」
http://www.meti.go.jp/committee/materials/downloadfiles/g80318b03j.pdf 2016年08月15日閲覧
三井化学株式会社(2016a) 「R&D方針・戦略」
http://jp.mitsuichem.com/techno/strategy/index.htm 2016年09月26日閲覧
三井化学株式会社 (2016b) 「社員紹介」
http://jp.mitsuichem.com/career/interview/oishi.htm 2016年09月01日閲覧
日本経済新聞 (2014) 「社内ベンチャー、成功に導くのは『スマートな野武士』
http://www.nikkei.com/article/DGXMZO76005580S4A820C1000000/ 2017年2月12日閲覧
日本経済新聞 (2017) 「三井化学・東ソー、純利益を上方修正 17年3月期」
http://www.nikkei.com/article/DGXLASGD02H77_S7A200C1DTB000/ 2017年2月5日閲覧

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