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ターゲット別コマーシャル戦略

 日清食品の販売するカップヌードルは、「ブランド・ジャパン」2016において2015年の24位から7位へと大幅に順位を上げた。岩野(2015)によると、日清食品の調査ではカップヌードルを一番食べない世代が18〜22歳であり、この理由として、「自分達の商品だと思っていないからではないか」と社長が述べている(水野・河原・松浦・染原, 2016)。このように、日清食品の社内では「カップヌードルが時代と共に年を取ってしまい、今の若者には自分たちのブランドという認識がなくなってきている」という危機感が広がっている。そういった危機感から、日清食品は橋本環菜をテレビコマーシャルのモデルに起用するなど若者向けのコマーシャルを開始した。日清食品のズナイデン取締役は、「大人には理解できなくても、若者の心に響くコマーシャルを作れば支持されると思った」(水野・河原・松浦・染原, 2016)と述べている。特に最近の橋本環菜が出演しているテレビコマーシャルは、本人が制服を着た姿で出演しており、学校の教室のような場所で撮影がされている。つまり、明らかにその世代の人々をターゲットとしていることがわかる。

 このような若者向けのコマーシャルが成功する前提として、コマーシャルが良いものでなければならないと私は考える。良いコマーシャルとは他のコマーシャルとの間に差異が存在するもの(土田, 2007)であり、また、効果のある広告である(百瀬, 2009)。効果のある広告とは、キャンペーンを通して訴求対象にメッセージが理解され、好感をもたれることによって売上増に結びつき、利益の拡大に貢献する広告のことである(百瀬, 2009)。当たり前のことだが、他のコマーシャルと似たようなものになってしまっては、差別化ができず消費者に対してインパクトが残せない。また、そのコマーシャルが消費者から好意を抱いてもらえることも重要である。仁科・田中・丸岡(2007)によると、コマーシャルへの好意度は、ブランドへの好意度・消費者の感情喚起・ブランドへの購買意欲と相関関係があるという。つまり、若者に好感を抱かれたカップヌードルのコマーシャルは、ブランドへの好意度やカップヌードルを購買しようという意欲にも影響を及ぼすことができるのである。日清食品のカップヌードルのコマーシャルにおいては、若者という対象に「カップヌードルは自分たちの世代も食べる商品だ」というメッセージを伝えるために、若者に人気のあるタレントを用いた。そのことによってその世代の人々にカップヌードルが自分達の身の回りにある商品だという好意を抱かれた。その結果、若者の購買意欲の向上、さらに売り上げの増加にもつながったと考えられる。したがって「効果のある広告」、つまり良い広告であったと言えるだろう。

 私は、このような若者にターゲットを絞り、そのターゲットに人気のある人物を用い、その人々の生活とリンクした環境を設定したコマーシャルの戦略は有効であると考える。なぜなら、若者がそうした人気のあるタレントも自分達と同じような環境に置かれていると感じれば、親近感が沸き、ブランドや商品に対して好感を抱くと考えるからである。この結果、自分達の身の周りにない商品だと感じていた人たちが、その商品を身近にある商品だと認知することによって、購買行動時におけるその商品の選択可能性が高められると私は考える。

 実際、消費者は自分達がほとんど知らないような商品の安全性や品質に、不安を抱くこともある。このように、商品やサービスに対する良いイメージであったり、悪いイメージとしての認知が広まることにより、消費者はそれらに対して「態度」を持つようになる(杉本, 1997)。その態度は「なんとなく嫌だ」といったような気分的なものや、「理屈じゃなく、目にすると買ってしまう」という行動的要素も含んでおり、消費者の購買行動にも関係するものである。このことから、その商品に対する「態度」が良い方向へ形成されれば、消費者は商品に好感を抱くのだ。つまり、商品に好感を抱いてもらうことによって、消費者の購買意欲を向上させることができるのである。

 しかし、本当に若者向けに作成したコマーシャルの影響のみでこの戦略が成功したのであろうか。私は、コマーシャルの影響に加えてSNSの影響が強くあったのではないかと考える。総務省(2015)によると、20代以下のフェイスブック利用率が49.3%、ツイッターが52.8%であり、おおよそ2人に1人がSNSを活用しているということになる。若者向けのインパクトある広告を打ち出し、それがSNSによって急速に広まる。この流れにうまく乗ることができたからこそ、日清食品のコマーシャルは成功したのだと私は考える。実際にツイッターのツイートを調べてみたところ、橋本環奈が出演していたコマーシャルの反響は大きく、「橋本環奈が出ているカップヌードルのCMかわいい」「カップヌードルの橋本環奈のCMマジで癒される」などといったものが数多くツイートされていた。この事例のように若者に人気のあるタレントを用いることによって、そのコマーシャルの話題性は上昇し、さらにそれがSNSを通してコマーシャルを見ていない同世代の若者へ認知されていったのである。確かに、最近若者はあまりテレビを見ないと言われているが、その状況の中でもSNSという媒体を通してコマーシャルを見た人々の感想が広まっていくのだ。

 これらのことから日清食品のコマーシャルが成功した理由を3点にまとめた。1点目は日清食品がターゲットを絞ったことである。若者にターゲットを絞ったことによって、その世代の人々に理解されるコマーシャルを作成することができた。2点目は日清食品が良いコマーシャルを作ったことである。橋本環奈を用いることにより、ターゲットの世代に好感を抱かれ、幅広く認知された結果、売上の増加につながった。3点目はそのコマーシャルを見た消費者たちがSNSで話題にし、同世代の共感を得たことである。SNSにおいて、橋本環奈の出演するコマーシャルについての感想が話題となり、同世代の人々から注目を集めた。この3つの条件がそろったからこそ、日清食品は商品の認知を上げ、「ブランド・ジャパン」において昨年よりも大幅に順位を上げることができ、売上も向上させることに成功したのだと私は考える。

 以上のように、ターゲティングを行い、そのターゲットに効果のあるコマーシャルを作り、SNSで反響を呼ぶという日清食品が行った戦略は、他の日用消耗品を取り扱う企業においても用いることができると考える。「ターゲットを絞る」と「良いコマーシャルを作る」は、どの世代に向けても実行可能である。そのターゲットに好感を抱いてもらえるような撮影環境の整備や、その世代の人々に人気のあるタレントを用いて、売上の増加につながるコマーシャルを作成すればよい。しかし、SNSにおいて反響を呼ぶというのは必ずしもすべての世代において成功するとは限らない。そこで、若者以外のターゲットの場合にはどのような形で反響を呼ぶことができるのだろうか。

 ここでは一例として、高齢者世代をターゲットとした場合を考える。NHK(2015)によると、50歳以上の人々は休日になれば9割もの人が一日に4時間以上もテレビを見ている。そのため高齢者にとってのTVコマーシャルは、他の世代よりも高い効果が得られる。高齢者世代をターゲットとしたコマーシャルは、その世代特有の体の悩みや生活習慣病などを解消できるということをアピールし、その世代に人気のあるタレントを用いて作成することで、好意を抱いてもらえる可能性がある。消費者にとって体の悩みが解消されることはもちろん好ましいことである。それに加えて、高齢者世代に人気のあるタレントがその商品を宣伝していれば、あの人が使っているなら私も使ってみようという気を消費者に起こすことができ、さらに好意を抱いてもらえる可能性があると私は考えた。高齢者の間で反響を呼ぶためには、会話の中でそのコマーシャルが話題とならなければならない。そういった会話が、高齢者の集まる場、例えば病院などの場所で行われることにより、反響を呼ぶことにつながる。つまり、その場が若者の利用しているSNSと同様の効果をもたらすのである。

 ここで、ただただ商品名を連呼したり、商品の機能だけを伝えるコマーシャルでは、反響を呼ぶことは難しいと私は考える。なぜなら、どの世代においても自分自身の体に不自由を感じている場合、そのことを他人には話そうとはしないと私自身考えているからである。たとえ他人に話すことがあっても、それはごく一部の信頼できる人であり、大勢に打ち明けることはないだろう。したがって、普通では話題に出しづらいようなテーマを重苦しくなく話すことができるように、綾小路きみまろのようなタレントを用いたコマーシャルにすることを提案する。彼の芸風である、あえて高齢者世代特有の体の不自由な点を皮肉り、笑いにつながるような言い方をすることにより、話にくさの軽減につながる。その結果、高齢者の集まる場においてそのコマーシャルの内容についての会話を行う可能性が上がると私は考えた。

 このように、年代別にセグメントを分け、その世代をよく把握し好感を抱かせるような昔から利用されているマーケティングの手法は、どのように反響を呼べるのかを考え実行すれば、現在でも利用可能である。ただし、世代ごとに反響を呼ぶ手段は異なっていることを忘れてはならない。作成者が、消費者の反響を呼ぶ手段を理解した上で、消費者がその内容を周囲に広げたくなるようなコマーシャルを作ることができれば、それはどの世代においても売り上げを上昇することができるような、よい広告となるのである。全ての年代において反響を呼ぶ手段が理解できれば、どんな日用消耗品でも消費者にアプローチすることができ、企業全体の売り上げを増加させることにつながるのである。

【参考文献】
岩野孝祐 (2016) 「カップヌードル、6年ぶり「なぞ肉」復活で若者開拓』日本経済新聞. http://www.nikkei.com/article/DGXMZO86181750X20C15A4000000/ 2016年5月25日閲覧.
国土交通省 (2010) 「鉄道の利用状況」『大都市交通センサス 首都圏報告書』 172. http://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/transport/daitoshicensus/h22cencus-shuto.pdf 2016年7月11日閲覧.
百瀬伸夫 (2009) 『良い広告とは何か』 ファーストプレス.
NHK (2015) 『2015年国民生活時間調査報告書』 8-9. http://www.nhk.or.jp/bunken/research/yoron/pdf/20160217_1.pdf 2016年7月6日閲覧.
水野孝彦,河野紀子,松浦龍夫,染原睦美 (2016) 「サービスの進化と深化でアマゾンが初の首位」『日経ビジネス』. 1837, 50-55.
仁科貞文,田中洋,丸岡吉人 (2007) 『広告心理』 電通.
日清食品 (2016) 「連結財務データ 連結業績の推移」 https://www.nissin.com/jp/ir/financial/consolidated/ 2016年6月1日閲覧.
杉本徹雄 (1997) 『消費者のための心理学』 福本出版.
総務省 (2015) 「ソーシャルメディアの普及がもたらす変化」『情報通信白書 平成27年度版』 194-214. http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h27/pdf/n4200000.pdf 2016年5月25日閲覧.
土田米一 (2007) 『効告。 企画をヒットさせるために広告クリエイターたちが考えること』 インプレスジャパン.

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