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ドーナツの潜在ニーズとは

 クリスピー・クリーム・ドーナツ・ジャパン(以下クリスピー・ドーナツ)は現在、運営の抜本的な改革を行っている。岡本(2016)によると、多店舗化の結果、立地や人材の問題により現状全ての店舗において、顧客に「かわいく、おいしい商品を、温かみのある接客を受けくつろげる店舗空間で食べてもらう」という「Joy」の価値を創造するという使命が実現できていない。そこで、各店舗の質向上と運営効率の向上を目的とした、店舗エリアの集約と店舗の閉店、リニューアルを行っている。

 そこで、私は実際どのように運営の抜本的な改革が行われているか、2016年7月12日にリニューアルオープンされたクリスピー・ドーナツ北千住ルミネ店のリニューアル前とリニューアル後に客として行ってみた。確かに、くつろげる店舗空間の構築ということで、一人掛け用の座席がポール形状の腰が痛くなるタイプから、人一人がゆったりと座ることのできる通常のものに変わっていた。しかし、複数人で座るための机や座席は変化を見て取ることはできず、内装などの色彩や雰囲気を変更しているわけでもなかった。また、レジ前での会計の並び方などにも変化は見られなかった。

 このように運営の抜本的な改革といっても、客として見た場合あまり変化を感じることのできないものであるならば、私は岡本氏の戦略よりも優先してやるべきことがあると考える。有馬(2016)は、なぜクリスピー・ドーナツが不振になったかについて、甘すぎる味がネックとなり、顧客が魅力を見出せなくなったと指摘している。多店舗化を行う前のクリスピー・ドーナツは、店舗数が少なかったため並ばなくてはならず、現在より簡単に購買することができなかった。たまにしかお目にかかることのできないドーナツであったため、ある意味その甘さがプレミア感の証であったのだ。しかし、多店舗化によって比較的購買しやすくなった現在ではそのプレミア感が薄れてしまった。むしろ、顧客はチェーン店を選ぶ際、メニュー、料理の内容を最も重視している(河野・武田・須永・水野 2016)ので、その甘さが、「甘すぎる、くどい」などといった顧客の飽きを引き起こしてしまったのではないだろうか。

 では離れてしまった顧客をどのようにして再び引きつければよいのか。確かに、運営の抜本的な改革も重要なプロセスではあるが、私は甘さ控えめなドーナツの提供を提案したい。なぜなら、現在、顧客のドーナツへの「潜在ニーズ」として、甘さ控えめなドーナツが求められていると考えるからだ。

 ここで、日本とクリスピー・ドーナツの生まれ故郷であるアメリカの砂糖消費量を比べてみよう。2013〜15年度の両国の年間砂糖消費量の平均は、日本が2,157トンで、アメリカの平均が10,882トン(農畜産業振興機構 2016a)と、日本はアメリカの砂糖消費量の約5分の1である。これは、アメリカの人口が日本の人口の約2.5倍ということを加味しても少ない。さらに、2015〜2016年の日本人の年間砂糖消費量予測は17.2kg /人で、アメリカ人の年間砂糖消費量予測は33.0kg /人(農畜産業振興機構 2016b)である。つまり、日本人の砂糖消費量はアメリカ人に比べると少なく、甘いものを消費していないことが分かる。したがって、既存の甘いドーナツを販売していても多くの日本人の好みに合わないのではないだろうか。

 さらに、Beck & Schatz(2014)によると、アメリカ人のカロリー摂取量も減少し、食生活がやや健康的になってきている。この健康志向の表れを考慮すれば、現在、欧ファンドに身売りするなど決して経営良好ではない(河内 2016)米クリスピー・ドーナツの経営の再建にも、この甘さ控えめなドーナツが一役買うのではないだろうか。なぜなら、アメリカのクリスピー・ドーナツのメニューを見てみると(Krispy Kreme Doughnuts Corporation 2016)、9割以上の商品がカロリーの高そうなトッピングでテカテカになっており、いかにも不健康そうに見える。したがって、健康志向が高まりつつあるアメリカでも、甘さ控えめなドーナツの需要があるのではないか。これは、ゼロカロリーコーラを売り出していながら通常のコーラも売り出しているコカ・コーラの戦略と通ずる部分もある。既存のいかにも不健康そうなドーナツを売り出しつつも、「いつもは甘さ控えめのドーナツも買っているから、たまにはこれ(いかにも不健康そうな既存のドーナツ)も買っていいわよね!」という甘いもの好きの「甘え」を誘発することにつながるのだ。こうすることによって、日本のクリスピー・ドーナツにも、アメリカのクリスピー・ドーナツにもさらなる売上を生み出せるのではないか。そして、仮に甘さ控えめなドーナツのアメリカへの導入が難しいとしても、日本とアメリカ両国間のクリスピー・ドーナツのメニューには違いがあるので、日本独自に甘さ控えめなドーナツを提供することは可能である。
 
 現在クリスピー・ドーナツの顧客は、多店舗化により購買しやすくなったクリスピー・ドーナツに魅力を見出せていない。しかし、潜在ニーズを探りそれにマッチした商品・サービスを提供することで、企業は長期的に競争優位を確立できる(川上 2005)。クリスピー・ドーナツにとって、甘さ控えめなドーナツを提供することは顧客の潜在ニーズに応えることのできる商品だ。甘さ控えめなドーナツがマスコミに取り上げられることで、顧客に再びクリスピー・ドーナツに関心を持ってもらい来店してもらう。甘さ控えめなドーナツに加え、既存のドーナツもついでに購買してもらうことでさらなる売上を生み出すことにもつながるだろう。そこで、甘さ控えめなドーナツの提供により競合他社に対して競争優位を確立できれば、クリスピー・ドーナツは再び日本に根付いていくことができるはずだ。


【参考文献】
有馬賢治 (2016) 「クリスピードーナツ、なぜ客離れで閉店の嵐?甘すぎ&割高感が浸透した戦略の失敗?」 『Business Journal』http://biz-journal.jp/2016/05/post_15173_2.html 2016年7月6日閲覧
Beck, M & Schatz, A (2014) Americans' eating habits take a healthier turn, study finds .
The Wall Street Journal,2016年7月6日閲覧 http://healthyamericans.org/newsroom/news/?newsid=2790 邦訳,
メリンダ・ベック&アミー・シュワルツ (2014) 「米国民のカロリー摂取量が減少―健康志向を反映」 『ウォール・ストリート・ジャーナル日本版』2016年7月6日閲覧
http://jp.wsj.com/articles/SB10001424052702303919304579326051275469682
川上智子 (2005) 『顧客志向の新製品開発 マーケティングと技術のインタフェイス』 有斐閣.
河内真帆 (2016) 「米クリスピー・ドーナツが身売り 欧ファンドに」『日本経済新聞』
http://mw.nikkei.com/sp/#!/article/DGXLASGM10H1K_Q6A510C1FF2000/
2016年6月15日閲覧
クリスピー・クリーム・ドーナツ・ジャパン株式会社 (2016) 「メニュー」 http://krispykreme.jp/menu/doughnut/ 2016年8月7日閲覧
Krispy Kreme Doughnuts Corporation (2016) MENU. http://www.krispykreme.com/menu/Doughnuts 2016年8月7日閲覧
河野紀子, 武田安恵, 須永太一朗, 水野孝彦 (2016) 「賞味期限切れのチェーン店 外食崩壊」
『日経ビジネス』 1841, 26-47
農畜産業振興機構 (2016a) 「主要国の1人当たりの砂糖消費(09/10~15/16年度)」
http://sugar.alic.go.jp/world/data/wd_data.html 2016年7月6日閲覧
農畜産業振興機構 (2016b) 「地域 / 国別砂糖需要(13/14 ~ 15/16年度)」
http://sugar.alic.go.jp/world/data/wd_data.html  2016年6月1日閲覧
岡本光太郎 (2016) 「大量閉店は再挑戦への布石」 『日経ビジネス』1839, 88-89.


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