インポスター症候群の克服

 インポスター症候群とは「人々が自分の成果を自分のものとすることができない心理的現象」と定義されるものである(Jackson & Heath, 2014)。広野(2020)によると、社会人がインポスター症候群に陥った時に一番問題となるのは、自信がなくなった結果として動揺し仕事が手につかなくなったり、業務のパフォーマンスが落ちたりすることである。ナラヤン・パント教授によると、このような動揺を抑えるためには、感情をコントロールするうえでの「気づき」「自覚」が重要であるという(広野, 2020)。なぜならば、なぜそんな感情が生まれるのか冷静に自己分析ができれば、その感情に振り回されることはなくなるからである。こうした感情への気づきや自覚によって、自分の中のネガティブな思考を無力化し、インポスター症候群を改善することができるという。

 このようにパント教授は、自分の感情への「気づき」や「自覚」によってインポスター症候群に伴う症状や問題を抑えることができると説明しているが、そこからインポスター症候群を克服することはできるのだろうか。私は、「気づき」や「自覚」だけではインポスター症候群を克服することはできないと考える。

 なぜなら、インポスター症候群の人は自分に高い理想を持っていて常に完璧な人間だと思われようとするため(広野, 2020)、たとえ自覚症状があったとしても、現状を変えるために行動を起こすとは考えにくいからだ。Clance & Imes(1978)によると、自分の症状やネガティブな思考に気づいても、「自分は周りを騙している」と思い込んでいるためにそれを止めることができず、むしろ現状を維持するために努力する傾向があるという。また、インポスター症候群においてネガティブ思考を自覚することは、周りの人を騙していることへの実感をより強めるということである。そのため、ネガティブ思考への自覚には大きなストレスを伴うと考えられる。実際にRicheson & Trawalter (2005)は、自分がネガティブな思考を持っているという自己認知が表出抑制を促し、それが自己制御の意欲や能力が低下した状態(Baumeister et al., 1998)である自我消耗を引き起こすことを示している。確かに、自分の中にあるネガティブな感情を自覚することは、一時的には冷静さを取り戻すことにつながるかもしれない。しかし、繰り返されるネガティブ思考への認知は、長期的な視点でみると自己の感情制御にマイナスの影響を及ぼしているのである。このようにインポスター症候群の解決策としてネガティブ思考を自覚することは、現状維持や自我消耗を引き起こすため、結果的には逆効果となる。したがって、気づきや自覚による自己分析だけでは、インポスター症候群を克服することはできないと考えられる。

 私は、インポスター症候群の克服のためには2つの事が重要であると考える。1つ目は、同じ症状を持つ人と交流を持ち、悩みを共有することだ。なぜなら、自分と同じ症状の人と互いに悩みを共有することで、同じ悩みを持つ仲間がいることへの安心感を得ることができると考えるからである。悩んでいるのは自分だけではないという安心感は心に余裕を持たせ、心に余裕ができると自分のことだけではなく周りの人や環境へ視野を広げることができるようになる。

 しかし、インポスター症候群に陥っている人は自己肯定感が低いために、周囲の人や環境に目を向けることができるようになったとしても、肯定的な意見を素直に受け入れて自分の考え方に反映させることは難しい。そこで、2つ目に毎日小さな目標を設定して達成することが必要であると考える。なぜなら、最初は達成出来て当たり前だと思うようなことでも、毎日の達成感が積み重なることで自分が自信を持つことの出来る能力の範囲が広がっていくと考えるからだ。インポスター症候群は「自分の成果を自分のものとすることができない心理現象」であるが、それは自分の考えていた能力以上の成果が出たときに強く感じるものだ。そこで、まずは自覚している能力の範囲内で目標を決め、達成できたら少しハードルを上げた目標を立てるというプロセスを毎日繰り返すことで徐々に自己肯定感を高めていくことができる。例えば会社で働く人の場合は、その日に最低限達成しなければいけないことをあらかじめ明確にしておくことが大切である。そして、その日の目標を達成することができれば、次の日の目標タスクを増やしたり仕事内容のレベルを上げたりといったことで、日々積み重なる達成感から少しずつ自己肯定感を高めていくことができるのである。このようにして自己肯定感が高まれば、他者からの肯定的な意見や評価を素直に受け取ることが出来るようになるだろう。

 そして他者との交流は、ネガティブ思考への気づきや自覚をしても思い込みを止められない、また自覚によって自我消耗を引き起こすといった問題を防ぐことができると考える。その第一の理由は、他者との交流によって周りの人や環境に目を向けることができるようになれば、自分の考え方や価値観が広がっていくからである。自分とは違う意見に触れることで、自分の考え方に多様性を持たせることができる。考え方の幅が広がれば、Clance & Imes(1978)で問題とされていた「周りを騙している」という強い思い込みについて自ら考え直すきっかけとなるのである。第二の理由は、他者に対して自分のネガティブな思考・感情を打ち明けることは、自己の内面の表出を意味するからだ。ふだん表に出していないネガティブな思考を少しでも他人と共有することで、常態的な表出抑制によるストレスを軽減させることができると考えられる。そして、そのストレスが軽減すると自己の感情制御をするための精神的余裕ができるので、Richeson & Trawalter (2005)で言及されていた自我消耗をも防ぐことができるのである。

 インポスター症候群の克服のためには、「自分は周りを騙している」「能力のある人間ではない」といった強い思い込みを無くすことが必要不可欠である。同じインポスター症候群の人と悩みを共有することで安心感が生まれ、周囲の人々の意見に耳を傾けることができるようになる。さらに、毎日小さな目標を達成していくことで自分に自信が持てるようになり、自己肯定感の向上を助ける。このようにして、他者との交流や日々の目標達成を続けていくことが、インポスター症候群に悩む多くの人々へその克服を可能にする一つの手段となるのではないだろうか。

【参考文献】
Baumeister, R. F., & Bratslavsky, E., & Muraven, M., & Tice, D. M. (1998).Self-control depletion : Is the active self a limited resource? Journal of Personality and Social Psychology, 74, 1252-1265. doi: 10.1037/0022-3514.74.5.1252.
Clance, P., R., & Imes, S., A. (1978). The Impostor Phenomenon in High Achieving Women: Dynamics and Therapeutic Intervention. Psychotherapy: Theory, Research & Practice. 15 (3), 241–247. doi: 10.1037/h0086006.
広野彩子 (2020) 「『自分は無能』と誰もが思う」『日経ビジネス』 2047, 90-91.
Jackson, D., & Heath, T. (2014). An antidote to impostor syndrome. XRDS: Crossroads, The ACM Magazine for Students. 21(2), 12-13. doi: 10.1145/2685027.
Richeson, J. A., & Trawalter, S. (2005).Why do interracial interactions impair executive function? A resource depletion account. Journal of Personality and Social Psychology, 88, 934-947. doi: 10.1037/0022-3514.88.6.934.

もりもと(2年)

追跡アプリの導入

 広岡(2020)によると、中国政府はコロナ感染のさらなる拡大を防ぐために、健康コードという新しいプログラムを導入した。健康コードはスマホ画面上で表示するQRコードであり、持ち主の新型コロナウイルスの感染リスクを「緑」「黄」「赤」の3段階で示す。このリスクの程度は、中国政府のデータベースの情報を基に自動的に判定される。このプログラムを利用するには、施設に用意されたQRコードをアプリで読み込む。このアプリは、様々な場所で入場する時に提示を求められたり、様々な施設や公共交通機関で確認されることもある。健康コードのシステムは地方によって違うが、もはや「デジタル通行手形」と言われるほど、中国人なら基本的に誰でもスマホに入れている。中国政府は普及させた健康コードを通じて人々の移動履歴を把握し、結果としてコロナの拡大を防いでいる。

 なぜこの健康コードは短期間に中国で普及することができたのだろうか。私は、中国人がプライバシーよりも便利さを重視するからであると考える。田中(2018)によると、中国のユーザーは自分にとって便利になる状況があれば、プライバシーを譲り渡すことに抵抗がなく、それどころかむしろ喜んで提供すると言われている。しかも、中国には人々の身分は数秒間で判明する「天網」という監視システムがあり、プライバシーを守りたくても守れない状況がある。だからこそ、プライバシーよりも、便利さを重視せざるを得なくなり、結果として健康コードが普及したのではないだろうか。

 では、このように中国では短期間に普及した追跡アプリを、日本政府は短期間に日本国民に普及させることはできるのであろうか。私は短期間に普及させることはできないと考える。その理由は2点ある。

 1点目は、中国人と日本人のプライバシーに対する捉え方が違うことである。前述したように、中国人は便利さのためにプライバシーを犠牲にすることも厭わない。一方で、日本人は便利さよりもプライバシーを重視する。田中(2018)によると、日本では個人情報は本人同意のうえでのみ公開することが一般的であり、その範囲も最小限にとどめられている。さらに、日本社会では、便利さや効率をある程度犠牲にしても、プライバシー「権」を守らなければならないという考え方が一般的である。これらのことから、日本ではコロナウイルスに関する情報を集めにくく、追跡アプリが実効性を持つことは難しいといえる。

 2点目は、プライバシーに関する法律の違いである。楊(2018)によると、中国の憲法にはプライバシーやプライバシー権に関する規定はなく、関連する法律も規定も相対的に弱い。言い換えると、中国では政府が人々の情報を自由に扱うことができるのである。それに対して、日本の個人情報保護法は、犯罪歴、信条や病歴などの取得には原則事前の同意を必要とするなど、個人のプライバシー権が手厚く保護されている(安藤, 2017)。つまり、日本では政府が勝手に人々の情報を利用することは認められていないのである。

 そして、このような日本人のプライバシーに対する考え方の変化や法律の改正を短期間で行うことは難しいと私は考える。なぜなら、人間の固定観念はその人が今までの経験や教育によって積み上げてきた考え方であり、簡単に変えることはできないからである。また、手続きを含めると、法律の改正には最低でも数ヶ月はかかってしまう。したがって、中国のように追跡アプリを日本で短期間に普及させることは難しいと考える。

 実際、日本政府は2020年6月から新型コロナウイルス接触確認アプリ(COCOA)を導入したが、9月15日までのダウンロード数は1692万件と、人口の1割に過ぎなかった。そして、その中の陽性登録件数は767件しかなかった(厚生労働省, 2020)のである。しかし、COCOAは、人口の6割に普及しないと効果が出ないと言われている。つまり、新しいアプリを国民にインストールさせることはかなり難しいのである。

 では、感染の拡大を防ぐために、日本政府はどうすればよいだろうか。私は政府による電子追跡システムの構築を提案する。電子追跡システムとは、通信会社と協力し、携帯電話のアンテナの電波を追跡するものである。この追跡方法は細胞定位法と呼ばれており(謝, 2020)、実際に台湾で用いられている。このシステムは特にアプリを必要としない。感染者の滞在した場所に15分以上自分がいたときには、携帯電話にメッセージが送られる。このメッセージが送られると感染の可能性がわかるので、PCR検査を受けたり自分の健康状態に注意を払ったりするなど、相応な行動を取れるようになる。これによって、わざわざアプリを入れなくても感染拡大を防ぐことができるだろう。そして、このシステムはただ携帯電話の電波を追跡し特定の携帯番号にメッセージが送られるだけなので、日本に導入されているCOCOAと同じように、個人情報を侵害するものではないのである。

 しかし、台湾で導入された電子追跡システムは必ずしも完璧なものではない。なぜなら、感染者と接触可能性がある人に送られるメッセージには、明確な場所や時間などは示されていないからである。また、基地局の範囲は広いので、誤差も出る。実際、感染者と100メートルの距離があってもメッセージが送られる可能性もあるのだ(謝, 2020)。したがって、台湾のシステムをそのまま日本に導入しても、COCOAよりも効果が出るとは言えないだろう。

 それではその誤差を少なくするにはどうすればよいだろうか。私は感染者が出た飲食店を表すコロナマップの構築を提案したい。コロナマップとは過去2週間感染者が立ち寄った店の情報を開示するものである。その情報をコロナマップに公開することによって、電子追跡システムからメッセージを送られた人は、感染者と接触した可能性をより正確に判断できるようになるのである。このコロナマップを構築するためには、情報開示の許可をもらう代わりに、例えば無料消毒や補助金といったインセンティブを与えるなど、企業やお店の協力を欠かすことはできないだろう。

 この際、個人の感染情報収集についてはLINEと連携したいと私は考える。なぜなら、総務省(2018)によると、日本におけるLINEの利用率はおよそ60%と、最も高いからである。協力する飲食店は、店の中にQRコードを設置する。顧客はそのQRコードをスキャンすれば、自分はいつその店にいたのかという情報を、自分のスマホのLINE keepに保存できるようにするのである。この情報は感染した際に保健所や病院からもらう感染番号と一緒にコロナマップのLINE公式アカウントに送信する。そうすると、万が一自分が感染者になった場合、どの店に行ったのかを正確に伝えることができるようになる。この際に「個人情報(姓名や年齢)を除いたあなたの過去2週間の行動履歴をコロナマップ上に開示することに同意しますか」というLINEメッセージに同意することで、感染者本人の意思も確認できるだろう。また、現在のところ多くの患者は軽症だと言われているので、自ら情報を提供することも可能だと考えられる。

 この電子追跡システム×コロナマップの利点は3点ある。1点目は、新しいアプリのインストールの必要がないことである。既に普及しているLINEと連携することで、自分の行動履歴を記録できるからである。2点目は、台湾の電子追跡システムより正確な点である。なぜなら、感染者との接触可能性というメッセージが送られた人にはコロナマップを閲覧することにより、その誤差を減らすことができるようになるからである。3点目は、国民が自由に閲覧できることである。この提案ではLINEアプリをインストールしていなくても、インターネットが使えさえすればコロナマップを閲覧できる。したがって、コロナマップさえ見ることができれば、国民は自ら感染した可能性を確認できるのである。そして、その可能性が高かった場合、自分で保健所に通報してPCR検査を受けるといった仕組みができれば、感染拡大の可能性を低下させることができるのだ。

 新型コロナウイルスの拡大防止にあたり、追跡アプリによるプライバシーの侵害は大きな課題である。中国のように政府が国民を追跡することは、日本ではなかなか受け入れられないだろう。そこで、国民自ら個人履歴を記録し、自らの同意の上で位置情報を提供する「電子追跡システム×コロナマップ」は、プライバシーを侵害しないシステムとして、日本で受け入れられる可能性が高いだろう。このような対策を行うことで、新型コロナウイルスのさらなる拡大防止に貢献できるのではないか。

【参考文献】
安藤均 (2017)「「忘れられる権利」は新しい人権かー「忘れられる権利」をめぐるプライバシーの検討―」『旭川大学経済学部紀要』76, 71-100.
広岡延隆 (2020)「国家丸ごとデジタル化 国民監視と産業振興」『日経ビジネス』2042, 30-33.
厚生労働省 (2020)「新型コロナウイルス接触確認アプリ(COCOA) COVID-19 Contact-Confirming Application」2020年9月16日閲覧, https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/cocoa_00138.html
総務省 (2018)「ソーシャルメディアの利用状況」『情報通信白書』2020年10月7日閲覧, https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h30/html/nd142210.html
田中信彥 (2018)「「中国人すごい」の底にある個人情報への鷹揚さ」『日経ビジネス』電子版 2020年6月11日閲覧, https://business.nikkei.com/atcl/opinion/16/041100064/101500010/
謝佩如 (2020)「怎麼知道我去過?21萬人收到提醒簡訊,如何不靠GPS追蹤足跡」『商業週刊』電子版 2020年8月16日閲覧, https://www.businessweekly.com.tw/focus/indep/6001621
楊鳳春 (2018)「中国のインターネット管理下における政府権力の拡張と国民の電子情報活動権益の保護」『アジア太平洋討究』32, 183-195.

ちん(2年)

地域コミュニティ通貨が地域のつながりを促進するためには

 日本の地域通貨は1999年から広がりを見せていた。しかし、泉・中里(2013)によると、地域活性化を掲げる地域通貨の大半は商品券と大差なく、結果として独自の効果を上げることなく取り組みを終えているという。その理由として、地域通貨は最初に円貨での購入行為がないと発行されないため、今まで地域外に流出していた購買力が地域内に劇的に戻ってくるような変化が起きない限り、一度使ったら円貨と化す商品券と何も変わらないものとなるからと述べられている。

 このような中、近年新たに注目されているのが地域コミュニティ通貨である。泉・中里(2013)によると、地域コミュニティ通貨は地域経済の活性化を狙う地域通貨とは違い、地域での人と人の新たな繋がりを重視し、地域コミュニティ通貨による取引やそれに伴って発生したイベントなどを通じて、地域に絆や信頼、互酬性の規範など社会生活を円滑にする関係が育まれていくことを期待する通貨である。柳澤(2019)によると、地域コミュニティ通貨の流通量が増えることで地域のつながりに直結するという。ここで言うつながりとは、社会関係資本という概念によって説明することができる。パットナム(1993)は、社会関係資本を「協調的行動を容易にすることにより社会の効率を改善しうる信頼・規範・ネットワークなど社会的仕組みの特徴」と定義している。つまり、つながりとは協調的行動が容易になる関係のことである。篠原・北西・武田・古川・白井・津久井(2019)は、地域コミュニティ通貨の例として、ITサービス会社のカヤックが開発したコミュニティ通貨「まちのコイン」を挙げている。「まちのコイン」は、人と人のつながりを増やすことで、地域での仲間づくりを促している。三木(2020)によると、「まちのコイン」の基本の仕組みは、商店街やお店、海岸の掃除の手伝いなど小さなことでも地域に貢献すると、お礼として「クルッポ」(コミュニティー通貨の鎌倉市での単位名)がもらえるというものである。もらったクルッポは、町のシェアオフィスや飲食店、ヨガ教室の支払いの一部などに利用できる。現在、「まちのコイン」は神奈川県の鎌倉市、北海道の下川町や福岡県の八女市など複数の市町村が導入を予定している。

 では、「まちのコイン」は地域のつながりを促進できるのか。ここでいう地域のつながりを促進するとは、パットナム(1993)の定義を用いて、協調を容易にさせる地域のネットワークが増加することとする。

 この点、私は地域のつながりを促進できないと考える。なぜなら、「まちのコイン」では信頼関係を構築できないからである。パットナム(1993)によると、信頼が人々の間の協調的な行動を促すという。この協調的な行動とは、相手を理解しお互いに力を合わせて物事に取り組んでいる関係と定義している。信頼を構築するには、相手が自分のことを理解し、心を開く必要がある。池田・馬田・帆足(2018)によると、自己開示は他者との関係を構築する上で重要なプロセスであるという。信頼構築までのプロセスは、まず他者と互いの私的情報を共有することで互いに相手への理解を深める。そして、コミュニケーションを重ねることで相手の情報を確かめ合い、お互いを受け入れることができ、信頼関係を構築することができるというものである。つまり、信頼構築には自分の情報を相手に共有することができる自己開示が不可欠なのである。自己開示がなければ信頼関係は構築できず、信頼関係が構築できなければ協調することは難しい。協調が難しければ、地域のネットワークは増加しない。したがって、初対面の人と関わる際に自己開示を必要としない「まちのコイン」では信頼関係を構築できず、地域のつながりは促進しないと考える。

 では、「まちのコイン」によって地域のつながりを促進するにはどのようにすればよいのか。私は、「まちのコイン」に「つながり」機能を取り入れることを提案する。「つながり」機能とは、直接関わった地域の人と互いのIDを交換することで「つながり」登録するというものである。まず、「まちのコイン」に自分のプロフィール登録する機能を搭載する。そして、地域の人を「つながり」登録すると、相手の事前に登録したプロフィールを閲覧できるようになる。その詳細についてアプリ上で相手に質問をできるようにするというものである。この「つながり」登録を促進するために、ID交換のインセンティブとして『「つながり」登録して1人に質問したら何クルッポ』というようなポイント付加サービスをつければ、つながりを増やすことができるのではないだろうか。

 この「つながり」機能には利点が3点ある。1点目はこれまで以上に地域の人に話しかけやすくなることである。「つながり」機能には利用者双方にメリットがある。それは、互いのIDを交換し相手に関する質問をすることで、互いにクルッポがもらえるというものである。そのため、顔見知り程度で話しかけていなかった相手でもクルッポがもらえるメリットがあるので、話しかけやすくなるのではないだろうか。2点目はアプリ内や対面でコミュニケーションが促進されやすくなることである。本アプリでは、プロフィールに書かれている相手の情報だけではなく、アプリ内の質問機能を用いてより詳しく相手について知ることが可能である。相手のことをより深く知ることによって、アプリ内でも対面でもより互いの関心の深い事柄について話すことができる。そうすると、やり取りが盛り上がり、コミュニケーションが促進しやすくなると考える。3点目は信頼構築を促進しやすくなることである。例えば、あなたが地域内で出会った人とID交換をし、「つながり」登録する。「つながり」登録をすると、まず相手の趣味や性格などの私的情報を把握できる。相手の私的情報を知ることができればコミュニケーションが促進されやすくなるだろう。そして、アプリ内の質問機能を通じて、相手への理解を深めることが可能になる。その後も実際に会った時にコミュニケーションを重ねることで、相手があなたにとって信頼できる人間なのかを確かめることができる。もし、信頼できる人間だと確信が得られたならば、あなたは相手と信頼関係を構築しようとするだろう。このプロセスによって、地域の人々と信頼構築を促進しやすくなると考える。

 地域コミュニティ通貨は、地域のつながりを増やすという役割がある。しかし、自己開示機能が存在しない「まちのコイン」では、信頼関係を構築するのは不可能である。その点、信頼関係構築するまでに必要な自己開示と相互理解を可能にする「つながり」機能を取り入れることが出来れば、地域の人々の信頼関係が構築されやすくなると考える。つまり、地域のつながりを増やすという地域コミュニティ通貨本来の役割を果たすためには、信頼関係を構築する自己開示機能を既存の仕組みの中に取り入れることが不可欠なのではないだろうか。

【参考文献】
Alesina, A., & Eliana, L, F. (2000). Participation in Heterogeneous Communities. Quarterly Journal of Economics, 115, 847-904.
藤山英樹 (2009)「社会関係資本と地域異質性・規模」『理論と方法』24(1), 109-119.
池田和史, 馬田一郎, 帆足啓一郎 (2018)「自己開示の促しによるコミュニケーション支援システム」『情報処理学会インタラクション2018論文集』163-172.
稲葉陽二 (2011)『ソーシャル・キャピタル入門 孤独から絆へ』中央公論新書.
泉留維, 中里裕美 (2013)「地域通貨は地域社会にどのような繋がりをもたらすのか」Economic Bulletin of Senshu University 47(3), 1-16.
泉留維 (2006)「日本における地域通貨の展開と今後の課題」『専修経済学論集』40(3), 97-133.
河合正弘, 島崎麻子 (2003)「日本の地域通貨制度 現状と課題」『社會科學研究』54(1), 145-169.
三木いずみ (2020)「「お金ではできないこと」って? 地域通貨の“お金以外”の使い道」
2020年1月28日閲覧, https://corp.rakuten.co.jp/investors/documents/results/2018.html
中里裕美, 大槻知史, 鐘ヶ江秀彦 (2005)「人間関係構築手段としての地域通貨システムに関する研究」『地域学研究』35(3), 719-736.
Richard, G, W. (2006). The Impact of Inequality: How to Make Sick Societies Healthier. New Press, 335.
ロバート・D・パットナム (2001)『哲学する民主主義』NTT出版.
篠原匡, 北西厚一, 武田安惠, 古川湧, 白井咲貴, 津久井悠太 (2019)「リブラ・インパクト」『日経ビジネス』2010, 55-57.
総務省 (2018)「平成30年通信利用動向調査ポイント」
総務省 (2019)「統計でみる市区町村のすがた」
柳澤大輔 (2018)『鎌倉資本主義』株式会社プレジデント社.

ひがし(3年)

クラスカがホテル事業撤退を回避するためには

学芸大学から徒歩約10分の立地にホテル「クラスカ」がある。奥平(2019)によると、この「クラスカ」は、UDSが築34年で立地の条件や老朽化により経営が行き詰まっていたホテルをリノベーションしたものである。この「クラスカ」はホテルだけでなく、レストラン、作品展示や撮影スペース等に利用できるレンタルスペース、伝統工芸品を扱うギャラリーショップなどが設けられている。UDSはこのリノベーションにあたり、長期滞在者用の客室やコワーキングスペースを用意した。1ヶ月当たりの居住費を周辺の住宅賃料に比べて5割以上高い水準にしたが、当時の稼働率は7〜8割 (藤川, 2003)と、デザイナーやクリエイター等を引きつけ、感度の高い人間が交流する空間へと生まれ変わったのである (奥平, 2019)。

ところが、株式会社クラスカは、2020年12月20日をもってホテルやレストラン、レンタルスペース等の運営終了を発表した。今後は、ショップ”DO”の運営のみ行うとのことである。たしかに、私が2020年1月4日13時頃にホテル「クラスカ」へフィールドワークに行ったところ、2003年と比べて状況が変化していると判明した。3階にあるクラスカ独自の雑貨店には様々な世代の顧客が訪れていた。一方で、この日のホテルは、20室中13室が空き部屋となっており、稼働率は65%に低下していたのだ。一体クラスカは、なぜホテルやレンタルスペースの運営を終了することになってしまったのだろうか。

クラスカ(2020a)によると、建物の老朽化に伴う保守改修が困難であることや地権者との賃貸契約のタイミングを理由としている。しかし、私はホテルやレンタルスペースの稼働率の低下がその理由であると考える。この稼働率が低下した背景を、オープンから2020年現在までの時系列に沿って見ていこう。

2003年にオープンしたクラスカ当初の主要顧客はデザイナーやクリエイターなどの感度の高い人々であった。その後クラスカは、2008年に「日本発の技術や価値を『発掘』し、国内だけでなく世界にも伝えていくこと」をコンセプトとして、外国人向けに施設のリニューアルを行った。元より海外からの顧客が多かったクラスカであったが(太田, 2009)、ホテルには新たに和室をイメージした客室が設けられ、レンタルスペースでは国内外から招いたデザイナーらによる展示会などのイベントが催された。これによって、クラスカは更に外国人顧客からの人気を集めたのである。

しかし、2014年頃からオープン当初の主要顧客、つまりデザイナーたちが他の施設へと分散してしまったと私は考える。この頃、クラスカが位置している目黒区周辺にレンタルギャラリースペースが増加した。250,000円で5日間利用できるクラスカよりも(クラスカ, 2020b)、1日あたり平均約30,000円で利用出来る他のギャラリースペース(Rental Gallery, 2020)の方が安価に利用出来る。クラスカのレンタルスペースは、他のギャラリースペースと比べると圧倒的に広い。しかし、クラスカは5日間からしか借りられないことや立地の不便さが伴うのに対して、他のギャラリースペースは1日から借りられる場所も多く、最寄り駅からの所要時間が短いなど、クラスカと比べて便利な面も見受けられる。実際クラスカのブログを読むと、イベントも2013年頃よりデザイナーたちによる企画ではなくクラスカ自身が開催したものが増えている。このように、オープン当時からの主要顧客は分散していったのだ。

更に、2017年頃からクラスカのようなデザイナーズホテルは次第に増加してきた。加えて、インバウンドの影響で外国人観光客が増加してきたため(日本政府観光局, 2020)、外国人顧客に特化したデザイナーズホテルや安価に宿泊できる民泊なども増加した。その結果、外国人顧客も他の施設へと分散してしまったのだろう。以上のことから、クラスカは元々の主要顧客であったデザイナーや次にターゲットとした外国人から一度は注目を集めたものの、両者ともに他の施設へと分散してしまったのである。そして、顧客の維持が出来なかったクラスカは事業撤退の選択をせざるを得なかったのではないだろうか。

それでは、クラスカがホテルやレンタルスペースの運営を続けるためにはどうしたらよかったのだろうか。私は、宿泊客限定で実際にアートを体験出来るイベントを導入するべきであったと考える。例えば、講師として、クラスカが日本各地のアーティストを招待し、250平方メートルもあるギャラリースペースを用いて宿泊客自身が絵画や陶器などを作るといったイベントである。

デザイナーやクリエイターでなくてもお洒落なクラスカに一度は泊まってみたいと考えている感度の高い顧客は確かに存在するはずである。しかし、クラスカの宿泊料は他のホテルと比べて高いので、常に同じサービスしか受けることが出来なければ、一度訪れた顧客はなかなか再宿泊を検討しにくい。そこで、月や週ごとにテーマを決め、その都度異なるジャンルの体験イベントを提供することによって、クラスカへの宿泊に魅力を感じさせることが出来るのではないだろうか。このイベントをクラスカが行うことのメリットは2点ある。1点目は、これまでに培ったアーティスト人脈やノウハウの存在である。これらを活用できれば、他のギャラリースペースが出来ない体験を提供出来るからだ。2点目は、クラスカのギャラリースペースが広大な点である。この広さは、クラスカにある20の客室全てが利用され40人の宿泊客がこのイベントに参加したとしても、十分であるからだ。この体験型のイベントに魅力を感じた人々は、来る度にイベントの内容が変わっていれば、多少値段は高くても「また来たい」と思うはずである。さらにこのイベントは、日本人が旅行をする際に旅行先の施設に求めている自分自身が体験するというニーズ(日本交通公社, 2019)を満たすことが出来る。したがって、このような体験型のイベントを開催することが出来れば、クラスカはホテルやレンタルスペースの運営を終了せずに済んだのではないかと私は考える。

現在新型コロナウイルスの影響を大きく受けてはいるものの、インバウンドの効果もあり市場規模が拡大してきたホテル業界である。その中でも本文で取り上げたクラスカは、2度もターゲットとした顧客を失い維持することが出来なかった。しかし、このクラスカもターゲットとした顧客に対して独自の強みを活かしたサービスを提供することが出来れば、「一度は泊まってみたい」と考えていた人々を取り込み、事業継続は出来たはずだ。日本国内には無数の宿泊施設が存在しているが、顧客獲得に難航する施設も少なくない。しかし、それらの施設も自社の強みや特性を見つめ直し、顧客のニーズに合ったサービスを展開することによって、顧客の維持や新規顧客の開拓が出来るのではないだろうか。

【参考文献】
藤川明日香 (2003)『再生ホテルが発信する「大人の暮らし」』『日経アーキテクチュア』20031208号, 28-32.
クラスカ (2020a)「Hotel CLASKA閉館と今後の活動・展開についてのお知らせ」2020年
4月26日閲覧, https://www.claska.com/news/2020/03/201220_finale.html
クラスカ (2020b)「STUDIO&GALLERY」2020年5月12日閲覧,
https://www.claska.com/studio/index.html
日本交通公社 (2019)「JTBF旅行者調査2019」2020年5月30日閲覧, https://www.jtb.or.jp/research/theme/statistics/statistics-tourist/
日本政府観光局 (2020)「訪日外客統計の集計・発表」2020年5月19日閲覧, https://www.jnto.go.jp/jpn/statistics/data_info_listing/index.html
奥平力 (2019)「どんな立地でも満足実現」『日経ビジネス』2009, 72-73.
太田憲一郎 (2009)「薩摩黒切手に外国人も注目」『日経デザイン』20004, 86-87.
Rental Gallery (2020)「東京のレンタルギャラリー・貸し画廊一覧」2020年5月12日閲覧, https://rental-gallery.jp/tokyo/page/2/

きじま(3年)

中小企業のオープンイノベーションを促進する経済特別区域

 竹居・佐伯・長江(2019)によると、外部の技術も活かしてイノベーションを生み出そうとするオープンイノベーション(以下、OI)という動きが日本でも強まってきている。なぜなら、市場ニーズがめまぐるしく変化したり、デジタル技術が発展したりしているからである。もはや自前の技術だけでは社会にインパクトを与えるようなイノベーションを起こせない、つまり既存技術だけでは戦えない危機感があるという。ゆえに、開発の時間短縮やコスト削減を狙ってOIに着手しているのである。

 竹居・佐伯・長江(2019)では、OIを成功させるために必要なポイントが4点挙げられている。1点目が強力な信頼関係である。開発が行き詰っても、相手を信頼していることで開発を続けることができる。2点目が自ら情報開示することである。そうすることで社外の人々を巻き込むことができる。3点目が契約上手になることである。それによってリスクを最小化できる。そして4点目は明確なゴール設定である。方向性を見失わず、ぶれずに開発を続けることが可能となる。

 上記のようにOIを成功させるポイントが挙げられているにもかかわらず、日本のOIは成功例が少ない。ではなぜ日本のOIは促進されていないのだろうか。私は、上記のポイントがOIに関する提携を始めた後に直面する課題であり、OIに関する提携を始める前に直面する課題(以下、提携前の課題)について指摘していないからだと考える。提携前の課題を乗り越えないと提携後の課題は現れない。したがってまずは提携前の課題を解決すべきである。また提携前の課題でも、大企業と中小企業の課題とでは、課題解決へのアプローチが異なる。大企業の提携前の課題は自社の経営努力で解決できる一方で、中小企業の課題は自社のみでは解決しがたいと考える。よって中小企業の課題はより深刻である。

 OIの提携可能性を高めるためには、広く企業や大学から探索されたり探索したりする必要があるが、以下の2点の課題によって中小企業のOIの提携可能性は低まる。1点目は技術の認知度である。大企業は優れた技術を持っていれば、認知度によりパートナー探しが容易である。一方で中小企業は限られた相手との協力関係を築いていることが多く(米倉, 清水, 2015)、 技術を広く認知させることに慣れていない。そのため、ほかの企業への技術の認知度を高めることが難しい。2点目は資金力である。OIのパートナー企業を探索するにはコストがかかるが、中小企業の資金力は弱い。それゆえOIに回せる資金が少なく、OI促進の阻害要因となる。これら2点の課題により、中小企業がOIのパートナー企業として探索されにくく、またパートナー企業を探索しにくくなる。ゆえにOIの提携はうまくいかないといえる。したがって中小企業の技術の認知度や資金力といった課題を解決する必要がある。

 そこで私は、政府によるOIに意欲のある中小企業が優遇される経済特別区域(以下、経済特区)を、神奈川県や兵庫県に創出することを提案する。中小企業に対する優遇とは、法人税の軽減やOIに対する助成金を指しており、選定された地区にオフィス等を構えていなかった企業に対しては、移転にかかる費用を軽減させる。

 まず政府が対策をすべき理由は、日本の製品・サービスが淘汰されることを防ぐためである。自前主義のイノベーションのみでは変化の激しい時代に追いつけないため、日本の製品・サービスが海外の製品・サービスに淘汰されてしまう可能性がある。そのような状況下では、法人税などの歳入が減少してしまう。

 次に本提案では、経済特区として人口密集地以外、かつ資金力のある都市部に近い地区を選定すべきである。人口密集地以外を指定する理由は2点ある。1点目は本提案の効果である。人口密集地では企業が群雄割拠しており、経済特区のプレゼンスが弱くなってしまう。それにより経済特区の外部に位置する企業との、OIに関する提携可能性が低くなるからだ。2点目は利用可能な土地の面積である。経済特区に多くの中小企業を招き入れるためにはある程度の土地が必要であるが、人口密集地は利用可能な土地の面積が狭い。以上の理由から、人口密集地は本提案の候補地から除外せざるを得ない。次に資金力のある地区を指定する理由は、経済特区に利用する土地を用意したり経済特区を運営したりするために、莫大な資金を必要とするにもかかわらず、税金の優遇などにより当分は税収が見込めないからである。また都市部に近いと、そこに構える企業が経済特区に訪問しやすく、さらに中小企業が経済特区から都市部の企業や大学に訪問しやすくなるため望ましい。神奈川県や兵庫県は、東京や大阪のような人口密集地でない。さらに総務省統計局(2020)によると、平成28年度の都道府県別歳入の順位で、神奈川県が6位、兵庫県が7位であることから、資金力があるといえる。加えて多くの企業がオフィスを構える東京や大阪から比較的近い。したがって経済特区として望ましい。

 本提案のメリットは3点ある。1点目は中小企業がOIのパートナー企業として探索されやすくなる点である。OIに意欲のある中小企業が集中することで、大企業などがこの経済特区の中から中小企業を探すことが可能となり、参画している中小企業は探索されやすくなる。2点目は中小企業の資金に余裕が生じる点である。助成金や税の優遇によって、中小企業のパートナー企業探しのための資金が、研究開発にも回せる。3点目が中小企業同士でのOIが促進される可能性が高まる点である。Chesbrough, Vanhaverbeke, and West (2006) によると、イノベーションのネットワークは地理的近接性によって拡大するため、OIは地理的クラスター内のほうがより簡単に実現できるという。さらにこの点は、竹居・佐伯・長江(2019)の挙げていたポイントのうち2点の解決にもつながる。1点目は密なコミュニケーションである。企業同士の距離の近さにより、単純接触効果が生じる。単純接触効果とは、ある対象への接触が反復するごとに、その対象への好感度や印象が高まることを示す(生駒, 2005)。この経済特区にはOIに関心のある企業が集まっているため、ほかの企業との出会いを模索している企業が多いと考えられる。集合することで企業同士の密なコミュニケーションにつながるのである。2点目は情報開示することである。企業同士の密なコミュニケーションが信頼関係を育み、相手企業との信頼関係は情報開示に対する不安感を軽減させる。それにより情報開示へのハードルが低くなる。実際にDyer and Chu (2003)によると、二企業間の信頼関係は相互の情報共有を促し、特に日本企業においてその傾向は強かったという。

 ただし中小企業が急にオフィスなどを移転することに関して、短期的にはデメリットもある。例えば移転する際の費用やそれまで関係を構築していた企業や顧客との距離が生じてしまう点である。しかし移転にかかる費用は助成金によって軽減されるため、資金面での移転のハードルは低い。また移転をすることにより税金面で優遇されたり、移転先でOIのパートナーを見つけたり、さらに大企業などから探索されやすくなったりとメリットは大きい。長期的な視点で見れば競争力の向上やその地区での新たな関係の構築につながる。そのため多くの中小企業にとって、メリットがデメリットを大きく上回ると考える。

 本文では中小企業のOIに関する提携前の課題を解決するために、OIに意欲のある中小企業が集合する経済特区を創設するという提案をした。OIでどれだけの価値を得られるかは知識の深さによっても決まり(Chesbrough, Vanhaverbeke, & West, 2006)、また中小企業は特定領域で深い知識を持っていることが多い(米倉, 2015)。そのため中小企業のOIによる日本の経済や企業の競争力への価値は大きく、それゆえ中小企業の技術はOIにとって重要である。したがって日本の中小企業のOIを促進するためには、中小企業の技術の認知度や資金力といった課題を解決する経済特区が必要なのだ。

【参考文献】
Chesbrough, H., Vanhaverbeke, W., & West, J. (2006). Open innovation: Researching a new paradigm. Oxford university press. 邦訳, 長尾高弘 (2008)『オープンイノベーション―組織を超えたネットワークが成長を加速する』英治出版.
Dyer, J. H., & Chu, W. (2003). The Role of Trustworthiness in Reducing Transaction Costs and Improving Performance: Empirical Evidence from the United States, Japan, and Korea, Organizations science, 14(1), 57-68.
生駒忍 (2005)「潜在記憶現象としての単純接触効果」『認知心理研究』3(1), 113-131.
総務省統計局 (2020) 『第六十九回日本統計年鑑』日本統計協会.
竹居智久, 佐伯真也, 長江優子 (2019) 「もう失敗させない オープンイノベーション」 『日経ビジネス』 1999, 24-41.
米倉誠一郎, 清水洋 (2015)『オープン・イノベーションのマネジメント』有斐閣.

すみた(3年)

いきなり!ステーキ既存ロードサイド店の新規顧客獲得のためには

 「分厚いステーキをリーズナブルな価格で立ち食いする」という新しいスタイルで成長してきた人気チェーン「いきなり!ステーキ」の既存店売上高が1年以上前年度割れを続けている(吉岡, 2019)。ペッパーフードサービス(2019a)は、店舗同士の競合による大幅な売上の低下から、2019年度の出店店舗数を210店舗から115店舗に見直すと発表した。吉岡(2019)は、値上げや競合他社の出現だけではなく、業績失速に3点の要因を挙げている。1点目はロードサイドへの過剰出店による自社同士のカニバリゼーション、2点目は新たな顧客獲得の失敗、3点目は人材育成不足だ。そこでペッパーフードサービスは業績復活のために、ロードサイドへの進出の緩和、以前より来店の少ないファミリー層やシニア層などの顧客獲得、オペレーションの向上によるクレーム削減を行うことで改善を進めている。実際、人材育成不足に関しては研修施設なるものを設置し、ベテラントレーナーの指導を受ける等の対策を取ることで改善が進んでいる(吉岡, 2019)。

 しかしいきなり!ステーキは、2019年度8月時点においても、全体として約80店舗ほど新規出店していた(ペッパーフードサービス, 2019b)。更に吉岡(2019)において、一瀬社長は「シニア層等の様々なニーズを取り込むためにもロードサイドへ出店を続けていく」「成長のペースを落としてでも、実のある出店を増やし、持続的な成長が出来る基礎体力をつけるため退店計画はしていない」と述べている。このような中で、いきなり!ステーキはこれ以上ロードサイドへの出店を続ける必要はあるのか。

 私はロードサイドへこれ以上出店する必要はないと考える。理由は2点ある。1点目は、これ以上の出店を続けると更なるカニバリゼーションが起きると考えるからだ。吉岡(2019)が述べているように、いきなり!ステーキでは既にロードサイドの店舗でカニバリゼーションが起こっている。株式会社船井総合研究所流通業活性化プロジェクト(2017)は、レストランの商圏がドライブタイムで約20分と述べている。しかし、いきなり!ステーキは元々駅前出店を主としていたため、ロードサイドでの新たな商圏設定がうまく出来なかった。実際に和歌山県には、和歌山岩出店、永穂店、和歌山国体道路店のように、ドライブタイムで20分以内に建ち並んでいるところがあった。このようにこれ以上出店をつづけると、更なるカニバリゼーションが起きてしまうと考える。また、ペッパーフードサービス(2019b)は、同じペッパーフードサービスのペッパーランチも、ロードサイドへの進出を強化すると発表した。ペッパーランチでは、人気No,1メニューであるビーフペッパーランチがいきなり!ステーキで取り入れられているだけでなく、品質は異なるがより安価なステーキを提供している。従って、今後ペッパーランチがいきなり!ステーキ店舗の商圏に出店してしまうと、ペッパーフードサービス内でのカニバリゼーションを誘発してしまうと考える。これらのことから、更なる出店をつづけると、いきなり!ステーキ内でもペッパーフードサービス内でもカニバリゼーションが起こるのではないか。

 2点目は、ロードサイドにはすでにファミリーレストランや回転寿司などのファミリー層向けのチェーン店が拡大しており、いきなり!ステーキがロードサイドでの競争に勝っていくのは難しいからだ。上記のチェーン店と比べると、いきなり!ステーキのメニューは、ファミリー層が店選びをする際の選択肢に入らないと考える。いきなり!ステーキでは、200グラム以上でないと大抵のステーキをオーダーすることが出来ない。少量のステーキをより安価に提供する他のファミリーレストランと比べると、量が多い分高価格になってしまう。またそれだけでなく、いきなり!ステーキには他ステーキ店と比べて、スープやサラダ、デザートなどのサイドメニューが少ない。これでは、家族の誰かがステーキの気分でないときに、いきなり!ステーキは店選びの選択肢に入らなくなってしまう。つまり、いきなり!ステーキのメニューは、ファミリー層の多様なニーズに応えられていないと言える。このままでは、いきなり!ステーキがファミリーレストラン等から顧客を奪い、ロードサイドでの競争に勝つことは難しいのではないだろうか。

 現在いきなり!ステーキは、ロードサイドへの新規出店を控えている。それだけでなく、先ほど述べたロードサイド店舗である和歌山県永穂店を2020年1月に閉店するなど、2020年に入り駅前、ロードサイド併せて74店舗もの店舗を閉店することも発表している(日本経済新聞, 2020)。しかし、新規出店を辞めても既存のロードサイド店舗の売上を上げていかなければならない。そこでいきなり!ステーキは、ランチタイムのお得なセットや安価な値段でのステーキの導入、牡蠣などの新メニューの導入を行った(神田, 2020)ものの、結果は伴っていない。このように店舗の商圏の重なりが少なくなっても、様々な施策がうまくいかない中で、今顧客の少ないロードサイド店の既存店舗が一番に取り組むべきことは、ランチやディナーの時間帯に外から覗いても客がいる状態にすることである。そのためには何が必要なのであろうか。

 私は、ファミリー層を取込まなければならないと考える。なぜなら、既存顧客はいきなり!ステーキの値上げに不満を持ちすでに離れてしまっているため(吉岡, 2019)、値下げを行わない限り再度取込むことは難しいと考えるからだ。それに加え、元々いきなり!ステーキがメインターゲットとしていたサラリーマンの昼食代は約570円と減少傾向にある(新生銀行グループ, 2018)。このことから、いきなり!ステーキは駅前のサラリーマンなどの顧客を維持するだけでは売上を回復することは出来ないと考える。そこで私は、まだ取込むことの出来ていないファミリー層をターゲットとするのが最善であると考える。ファミリー層の外食支出額は増加傾向にある (日本食糧新聞, 2019)。実際に郊外に多く出店している回転寿司は、ファミリー層を獲得することによって業績を伸ばしている(日刊工業新聞, 2017)。それに加え、いきなり!ステーキはファミリー層向けに店内をリニューアルしており、ステーキ専門店がメインターゲットとしていないファミリー層を獲得しやすいのではないかと考える。

 では、どうすれば既存のロードサイド店はそのような顧客を取り込むことが出来るのか。私は、ファミリー層を取込むためにファミリープレートの開発を提案したい。具体的には、家族で取り分けられる200グラム以上のステーキと、家族の人数分以上のサイドメニューをセットにしたものを、ファミリープレートとして提供する。そしてこのセットのために、子供が好きなスープや揚げ物、ドリンク、女性向けのサラダ、デザートなどの新たなサイドメニューを開発する。このように、サイドメニューが増えることによって、家族それぞれが好きなものを選べるような選択肢が増えるので、ファミリーの多様なニーズを満たすことが可能となる。その上ステーキの取り分けが可能となるため、量が多く冷めて固くなると食べにくいと感じていた女性客や子供も、温かい内においしく食べきることが出来るのではないか。

 この提案によって、ファミリー層が持っていた「立ち食いで家族向けではない」といういきなり!ステーキのイメージは刷新されるだろう。そして、このプレートにより一人あたりの単価を下げることが出来るので家族連れが来店しやすくなる上に、ステーキ専門店のステーキをリーズナブルに食べられることにも繋がる。またステーキの値下げをして利益を圧迫するのではなく、一般的に考えれば原価率が低く利益が出るものが多いサイドメニューと原価率の高いステーキを組み合わせることによって、プレートの値段を安価に設定しても利益を生むことが出来ると考える。

 2020年春現在、飲食業界の市場規模はわずかながら増加傾向にある(ホットペッパー, 2020)。それにも関わらず、いきなり!ステーキの既存ロードサイド店は、カニバリゼーション、新たな顧客獲得の失敗により売上が低下し、苦境に立たされている。今後、競争の激しい飲食業界の中で売上を上げて行くには、「リーズナブルな価格で多様なメニューを頼みたい」ファミリー層を獲得できるかどうかが鍵となる。そのために、ファミリープレートのような新たな施策が必要なのではないか。

【参考文献】
ホットペッパー(2020)「外食市場調査」2020年3月29日閲覧, https://www.hotpepper.jp/ggs/research/article/marketing/202001?doing_wp_cron=1585651469.2870368957519531250000
株式会社ペッパーフードサービス(2019a)「業績予想の修正に関するお知らせ」2019年7月2日閲覧,https://pepper-fs.co.jp/_img/ir/lib/2019/PFS20190628A.pdf
株式会社ペッパーフードサービス(2019b)「ニュース」2019年8月26日閲覧, https://www.pepper-fs.co.jp/news/
神田啓晴(2020)「いきなり!ステーキ、起死回生の一手は「ペッパーランチ」回帰?」2020年3月4日閲覧, https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00100/022600007/
「ファストフード市場、2.5%増の2兆9682億円」 『日刊工業新聞』2017年8月4日
日本経済新聞(2020)「「いきなり!ステーキ」2020年に74店閉店 ペッパー」2020年3月4日閲覧, https://r.nikkei.com/article/DGXMZO56071050W0A220C2HE6A00
日本食糧新聞(2019)「全国外食産業・業務卸特集」2020年3月29日閲覧, https://news.nissyoku.co.jp/news/kinbara20190726050347086 清水伸年 (2016)「「脱チェーンストア」の現状と課題」『マーケティングジャーナル』36(2) 62-77.
新生銀行グループ(2018)「2018年サラリーマンのお小遣い調査」2020年3月29日閲覧, https://www.shinseibank.com/corporate/news/pdf/pdf2018/180628okozukai_j.pdf
吉岡陽 (2019) 「いきなり!転落、復活への苦闘」 『日経ビジネス』1996, 58-62.

たちばな(3年)

「栃木i37号」の知名度を上げるために

 奥平(2019)によると、イチゴ市場は、1980年代後半から2000年代前半にかけて、東日本で栽培される「女峰」と西日本で栽培される「とよのか」とで、シェアを半分ずつ分け合う状況が続いていた。しかし、産経新聞(2018)によると、1995年産の生産額で「とよのか」はトップの座から引きずり落とされた。その原因は、栃木県を代表する「とちおとめ」の誕生だ。この誕生により、「とよのか」は特売用に回されることが増えたのである。奥平(2019)によると、この状況に触発されて2005年に誕生した福岡県の「博多あまおう」は、その後首都圏で定着した。これにより、相対的に県産イチゴの評価が下がることを危惧した栃木県は、2014年に高級志向の「スカイベリー」を開発して対抗を試みた。しかし、現状として「スカイベリー」は知名度が低く、「博多あまおう」への対抗は難航している。

 では、なぜ「スカイベリー」の知名度は低いのだろうか。私は、「スカイベリー」のチャネルが非常に限られているからだと考える。

 「博多あまおう」は、全国の量販店や高級果物店においてイチゴの定番商品となっている。同じ「博多あまおう」であっても、比較的グレードが低いものは量販店にて低価格で販売し、比較的グレードが高いものは高級果物店にて高価格で販売することによって、チャネルによる商品の平均価格の差にも対応している。また、普段量販店でイチゴを購入する消費者のほとんどは、高級果物店ではイチゴを購入しない。同様に、普段高級果物店でイチゴを購入する消費者のほとんどは、量販店ではイチゴを購入しない。そのため、量販店と高級果物店とで「博多あまおう」のグレードに違いがあっても、消費者が不満を持つことは少ない。したがって、量販店と高級果物店というそれぞれの領域において、それぞれの消費者から「博多あまおう」は認知されているのである。

 一方、「スカイベリー」は、関東以外では販売されていない。また、関東であっても、量販店ではほとんど販売されていない。つまり、「スカイベリー」を認知する消費者は、高級果物店を利用する人を中心としたごく一部に限られてしまっている。だから知名度が低いのだ。確かに、栽培数量を少なくしてチャネルを高級果物店に限定することは、「スカイベリー」という高級志向のブランドを維持していくためには有効かもしれない。しかし、消費者が存在を知らなければ、たとえ味が良いイチゴであったとしてもそのイチゴは購買対象にならない。そして、実際に消費者がそのイチゴを購買して食べる機会がなければ、味の良さには気づくことが出来ないのである。そのため、多くの消費者は既に認知している「博多あまおう」を選択することとなり、栃木県産イチゴの評価を下げないという「スカイベリー」開発本来の目的を達成できていないのではないだろうか。

 しかし現在、栃木県は知名度の高いイチゴを生み出す好機にある。「栃木i37号」という新たなイチゴが開発されたのだ。この「栃木i37号」の開発目的はイチゴの消費拡大にある(栃木県, 2019)。つまり、高級果物店よりも量販店で取り扱われやすいイチゴである。また、生産が容易で収量が多いため、価格も抑えやすい。では、どうすればこのような「栃木i37号」の知名度を上げることができるのだろうか。

 私はまず、「栃木i37号」を特定のコンビニチェーンにおいて独占販売することを提案する。なぜなら、「栃木i37号」が最初から「博多あまおう」など既に知名度が高いイチゴに勝てるとは考えにくいからだ。その点コンビニであれば、生鮮食品で複数の銘柄を置くスペースは少ないため、「栃木i37号」を独占的に取り扱ってもらえる可能性が高い。もし独占的に取り扱ってもらうことができれば、他のイチゴと比較されることなく、イチゴとして消費者に「栃木i37号」を手に取ってもらえるだろう。そして、手に取ってもらうことは、実際に「栃木i37号」のおいしさを消費者に認知させることにもつながる。さらに、全国チェーンであれば、「とちおとめ」だけでなく「博多あまおう」など他のイチゴが既に定番となっている地域にも切り込んでいくことができ、「栃木i37号」の知名度向上に役立つだろう。

 具体的には、食べ切りサイズのパック詰めにして販売を行う。スーパーで売られているサイズよりも小さな食べ切りサイズにすることで、コンビニ利用客は「栃木i37号」を手に取りやすくなる。また、鮮度管理の問題に対応するために、パックを複数重ねてもイチゴがつぶれない「クリスタルケース」(山口宇部経済新聞, 2008)を利用することも検討したい。

 まず、生のままパック詰めとすることで、粒の大きさや発色の良さなど、「栃木i37号」自体の鮮度の良さを消費者に直接伝えることができる。この鮮度の良さは、消費者にとって「栃木i37号」を購買する強い動機となるだろう。実際、一般社団法人新日本スーパーマーケット協会(2015)の調査によると、消費者が果物を購買するときに最も重視しているのは鮮度の良さである。そのため、多くの場合、加工品ではなく「果物そのもの」が手に取られているのだ。つまり、コンビニで売られている鮮度の高い「栃木i37号」は手に取られやすいので、そのことに満足を感じる消費者層は増えていくだろう。満足を感じることによってブランドロイヤルティが形成され、「栃木i37号」を再び手に取る消費者が増える。このことによって、「栃木i37号」の知名度が向上することになるのだ。

 このように、「博多あまおう」のような1つの商品における成功が、「スカイベリー」といった他の商品においても通用するとは限らない。そもそも商品が別である上、時代によって消費者のニーズも多様化しているからだ。「栃木i37号」の場合は、イチゴの消費拡大という明確な開発目的があり、コンビニの出店範囲は全国規模に広がっているという時代背景もある。過去の成功例にとらわれず、その商品の開発目的を明確にした上で、時代背景や商品の特徴に合わせたマーケティング、すなわちコンビニでのパック詰め販売が、「栃木i37号」の知名度を上げることにつながると私は考える。

【参考文献】 
一般社団法人 新日本スーパーマーケット協会(2015)「2015年度 スーパーマーケット白書」2020年1月27日閲覧, http://www.super.or.jp/wp-content/uploads/2015/02/supermarket-hakusho2015-3-0924.pdf
奥平力(2019)「成功は一部、競争も激化 曲がり角の特産品開発」『日経ビジネス』1999, 42-45.
産経新聞(2018)「【平成のイチゴはこうして生まれた】あまおう(1)王座奪還へ福岡の総力戦」2020年1月27日閲覧, https://www.sankei.com/smp/region/news/180321/rgn1803210053-s1.html
栃木県(2019)「「栃木i37号」の生産振興方針」2020年1月27日閲覧, http://www.pref.tochigi.lg.jp/g05/itigoyasai/shinhinsyu/documents/i37seisanshinkouhoushin.pdf
山口宇部経済新聞(2008)「重ねても大丈夫なイチゴパックで出荷スタート−防府のイチゴ農園」2020年1月27日閲覧, https://yamaguchi.keizai.biz/headline/518/

たかはし(2年)

やよい軒が重視すべき「自社の強み」

 2019年の春、やよい軒は一部店舗でテストマーケティングとしてご飯のおかわり自由を廃止した。代わりに、無料であったおかわりを一杯30円〜100円の有料制にし、十六穀米の大盛をプラス50円にしたのである。山田・広田・白井(2019)によると、今は消費者にとって「0円」ほど強い魅力はなく、「無料」をビジネスモデルに組み込む「フリー戦略」が一般化してきている。しかし、最近はその費用対効果を疑う企業が増えてきたという。やよい軒もそういった企業の1つと言える。やよい軒が今回のおかわり有料化を行った背景には、まず、売上高が前年比0.6パーセント増と堅調な実績を維持しており、その現状は「おかわり自由」がなければ保てないのか、という問題意識を持っていたことが挙げられる。さらに、おかわりをする人の割合がかつての7割から5割強まで減っているという背景もあったからである。また、青木 (2019)では、有料化の理由に、おかわりをしない顧客の不公平感があったからであるといわれている。

 やよい軒は、今回の有料化をあくまでテストマーケティングとして行っており、今後有料化を実際に行うかどうかを検証していくという。この有料化について、メディアでは様々な意見が挙げられている。例えば、山田・広田・白井(2019)では、おかわりする人の割合はそれほど変わらず、顧客離れも起きていないと述べられている。一方、毎日新聞デジタル(2019)によると、SNS等で多くの反感の声がやよい軒の親会社であるプレナスに対して押し寄せた、と記されている。では、やよい軒はおかわりの有料化を全店舗で本導入するべきであろうか。

 私は有料化するべきではないと考える。なぜならば、有料化すると、やよい軒は自社の強みを失い、顧客の不満も解消されず、顧客の離反行動につながると考えるからである。まず、やよい軒の強みはおかわりを自由に出来ることだと私は考える。その理由として、山田・広田・白井(2019)では、やよい軒の顧客の半数以上がおかわりをすると述べられていた。さらに、店舗内外に掲示されているポスターや、テストマーケティング後に放送されているCMでも、おかわりが無料でできることを大々的に伝えている。最近では、ユーリンチー定食がその例であるといえるだろう。こういった、多くの顧客がおかわりをしていることや、大々的にCMやポスターで、無料でおかわりができると伝えていることから、ご飯のおかわりが自由に出来ることはやよい軒の強みであると言える。

では、やよい軒が「おかわり自由」という強みを失うことは、なぜ顧客の不満解消には至らず、結果、顧客離れにつながるのだろうか。まず、今回やよい軒が有料化を行った理由の一つに、青木(2019)で言われていた、おかわりをしない顧客の不公平感からの不満があった。やよい軒は、この非おかわり勢からの不満解消策として、自社の強みである「おかわり自由」を手放したことになる。確かに、こうすることで非おかわり勢の不満は解消されたかもしれない。しかしその結果、「おかわり自由」という強みを失ってしまい、今までおかわりをしていた顧客に不満を抱かせてしまう。つまり、おかわりの有料化は、非おかわり勢の不満を取り除く代わりに、やよい軒にとって重要な、半数以上もの「おかわりをする顧客」から、新たな不満を生み出してしまうという最悪の結果を招いてしまうのである。よって、不満を解消する策であったはずの「おかわり有料化」は、結果として不満を増大させることになるのである。

 さらに、Shampanier, Mazar & Ariely(2007)の研究は、行動経済学の視点から、無料であることは需要を大きく拡大させることを明らかにしている。また、製品内容やサービスの内容が同じにも関わらず、料金が無料から有料に変われば、離反行動が発生することも明らかにしている。やよい軒の半数以上の顧客がおかわりをしている状況にも関わらず有料化を実施すれば、顧客が離反行動を引き起こすので、売上を維持することは困難である。もし、この取り組みによって、新規顧客の増加が見込めるならば売上の維持も考えられるが、有料化をしたことは新規顧客にとって何のメリットもないので、新規顧客の増加につながるとは考えられない。つまり、有料化をすると顧客の数は減少し、売上の維持はできなくなってしまう。よって、山田・広田・白井(2019)で述べられていた「有料化を行っても売上高の維持が可能」とは言えないのである。従って、やよい軒が有料化を行った背景にあった、非おかわり勢からの不公平感は解消されず、さらに売上高に関しては維持するどころか減少させてしまう。このことからやはり、やよい軒はご飯のおかわりを有料化すべきではないと私は考える。

 では、やよい軒はおかわりをしない顧客の不公平感をどのように解消すればよいのだろうか。私は、「おかわり自由」に不公平感を持つ非おかわり勢がおかわりをするようになれば、その不公平感は少なくなると考える。そのために私は、茶碗のサイズを少し小さくし、最初に茶碗に入っているご飯の量を減らせばよいと考える。その理由は、ご飯の量が少なくなる事で、非おかわり勢にもご飯が足りない状態が生まれ、おかわりをする人が増えると考えるからである。そうすれば、有料化の理由であった「おかわりをしないことからの不公平感」は少なくなるだろう。一方、今回の提案では、茶碗のサイズが小さくなってしまうので、これまでおかわりをしていた人に「おかわりに行く回数が増えることを面倒に感じさせてしまう」という懸念がある。しかし、やよい軒は自分でおかわりのご飯を入れることが出来る。従って、茶碗が少し小さくなったとしても、おかわりの際に自分で少し多めに盛れば、こういった懸念は解消されると考える。さらに、おかわりをしていた顧客がおかわりの回数が増えることを面倒に感じ、おかわりの回数が減らすと、ご飯の消費量も減る。それによって結果的に、材料費を抑えられるということも考えられるだろう。以上の理由から、私は「茶碗を小さくし最初に入っているご飯の量を少なくする」という提案をしたい。

 このように自社の「強み」は顧客を獲得するために必要な要素であり、簡単に手放してはならない。たとえ「フリー戦略」のような流行のビジネスモデルがあったとしても、新しく何かに手を出すのではなく、まず自社の強みというものを第一に考えていく事がどの企業にも必要である。その点で、やはりやよい軒はご飯のおかわりを有料化すべきではないだろう。やよい軒にとって、「おかわり自由」は自社の強みであり、たとえ顧客からの不満があったとしても、その強みを活かして手を打つ必要があるといえる。このように「強み」を活かして手を打つことで、既存顧客を逃すことなく新規顧客や問題点に対するアプローチが可能となるのである。どれほど人気のある「流行」や「ビジネスモデル」があったとしても、企業はまず自社の強みに目を向けるべきである、と私は考える。

【参考文献】
青木正典 (2019)「非おかわり勢が不公平と主張?やよい軒おかわり有料テスト導入の理由が明らかに」『J-CASTニュース』2019年10月29日閲覧.
https://www.j-cast.com/2019/04/15355310.html?p=all
毎日新聞デジタル(2019)「定食「やよい軒」、一部店舗で有料化 客から「不公平感」に意見」2019年7月15日閲覧https://mainichi.jp/articles/20190415/k00/00m/020/103000c
Shampanier, K., Mazar, N. & Ariely, D. (2007) Zero as a special price:The true value of free products. Marketing Science,26(6), 742-757.
doi:10.1287/mksc.1060.0254 2019年12月16日閲覧.
山田宏逸, 広田望, 白井咲貴(2019)「新規企業という病」『日経ビジネス』1996, 28-47.

おかがわ (2年)



チャオパニックが若者に選ばれるには

 津久井(2018)によると、新規開店した衣料・雑貨店「ベースヤードトーキョー」はこれまでの店舗と趣が全く異なるものだという。「ベースヤードトーキョー」ではとがったデザインや落ち着いた色合いなど印象が違う5つのブランドがゾーンを区切って商品を並べている。その中でチャオパニックが目立つ。このブランドはもともとオリジナルブランドを6〜7割、仕入商品3〜4割を扱っている。そんな中、ベースヤードトーキョーに限っては仕入れ商品とオリジナルブランドの割合を逆転させた。なぜならSPAにより売れ筋商品に偏りが生まれ、商品が均質化してしまった結果、他社との違いを出しづらくなっているからだ、と津久井は述べている。

 そこで仕入れ商品とオリジナルブランドの割合を逆転させたことによる変化を確認するために、私は通常のチャオパニックの店舗であるチャオパニック海老名店とベースヤードトーキョーに出店するチャオパニックにと足を運んだ。チャオパニック海老名店では仕入れ商品とオリジナル商品が店内に分けられることなく配置されている。また店を見渡し商品を確認したところ、オリジナルブランドの割合は全体の6割程度といったところだ。さらに、海老名店が出店しているららぽーと海老名にある他のアパレル店舗と比較したところ、チャオパニックと似たようなテイストの商品が並んでいるように見えた。次にベースヤードトーキョーである。こちらでも仕入れ商品とオリジナルブランドが分けられることなく配置されている。店を見渡し商品を確認したところ、仕入れ商品の割合は全体の7割程度といったところだ。加えて、ベースヤードトーキョーにおいてのみオリジナル商品と仕入れ商品の割合を逆転させた理由は、他社との差別化というよりチャオパニック内で差別化する意図があった、とチャオパニックの店員さんが述べていた。つまり、商品の割合を元に戻すと、ベースヤードトーキョーに出店するチャオパニックと一般のチャオパニックが同質化してしまうことになるのである。

 ではチャオパニックは他社と差別化をするために、ベースヤードトーキョー以外の店舗でもオリジナルブランドと仕入れ商品の割合を逆転させるべきだろうか。私は逆転させるべきではないと考える。理由は二つある。

 一つ目は、利益率が落ちるからだ。チャオパニックはベースヤードトーキョー以外の店舗においては、オリジナルブランドの比率が高い。オリジナルブランドはSPAで展開されているので、コストダウンが見込まれる。対して、仕入れ商品は他社から買い取っている分オリジナルブランドと比較してコストがかかる。一方、オリジナルブランドは売れ筋商品を中心に製造するので比較的売れやすい。また、自社で生産することで規模の経済によるコストダウンが見込まれる。つまり、売れれば売れるほど仕入れ商品より多くの利益を生み出すことができる。したがって、利益を確保するためにSPAの体制維持は不可欠である。

 二つ目は、仕入れ商品に頼らずとも同程度の品質の製品を提供できるからだ。井上(2008)によると、オリジナルブランドを作るために素材の調達から小売りまでを自社で行うことで、仕入れ商品をはじめとする一般商品と同じ質を維持することができるという。また、チャオパニックであれば更なるメリットも見込める。商業界オンライン(2018)によると、パルグループは2016年に生産プラットフォーム室という部署を設けている。これは素材の共通化などにより、製品の質を上げようとしている試みである。例えば、パルグループ内のチャオパニック以外のブランドが優れた素材を使おうとした時に、チャオパニックもその同じ素材を使うことができる。このように、ブランド毎で仕入れたときに発生する単価を抑え、各ブランドの探索コストの削減を行うことができる。したがって、仕入れ商品と同程度、また仕入れ商品より優れた質の製品を販売するために、仕入れ商品とオリジナルブランドの比率は維持するべきである。

 ところが、従来通りチャオパニックにおいてオリジナルブランドと仕入れ商品の比率を維持すると、どうしても他社と似たような商品ラインナップになってしまう。そうすると、チャオパニックではなく他社で購買してもいいと考える消費者が増えてしまう。そこで私は、従来通りのラインナップを維持しつつ他社でなく自社で買ってもらえる施策が必要であると考える。その理由は、チャオパニックのオリジナルブランドには需要があると考えるからである。繊維流通研究会(2014)によると、チャオパニックは数年前から20代を中心とする若者をターゲットにしている。加えて、30歳未満の人々の洋服への支出が減少傾向にあることが明らかになっている(総務省, 2014)。これらのことから、チャオパニックの狙う顧客層はオリジナルブランドのような比較的安価かつ品質の良い商品を購買すると考える。そのため今後もオリジナルブランド中心の商品構成にする必要があるのだ。

 では、その中でチャオパニックが自社の商品を若者に選んでもらうためにはどうすればよいだろうか。私は、店内に商品のコーディネートやこだわり部分などの詳細が分かるように、QRコードを配置することを提案する。このQRコードを読み取ると、その商品のコーディネートやこだわりポイントを見ることができるだけでなく、店員がチャオパニックの服を日常で着ている写真も見えるようにする。本提案のように、商品にQRコードをつけ詳細を分かりやすくするという仕組みは、海外では実施されているようであるが、日本のアパレルでは現状この仕組みはない。

 この提案の特徴は消費者に対してコーディネートのイメージを提供できる点である。通常店内では店員が商品について話すことで顧客に情報を伝達してくれる。しかし、その商品を着用した全体像や、畳んであるだけの服と自分の家にある服との組み合わせは、店員の説明を聞いているだけではわかりづらい。そこで、本提案のように視覚的に分かる仕組みによってこそ、顧客は商品をイメージしやすくなると考える。また、本提案は雑誌等よりも顧客に商品の良さや組み合わせを訴求できると考える。店内にファッション雑誌などを置いている店があるように、雑誌が服を選ぶときの判断材料の一つになるのは間違いない。しかし、雑誌の多くはプロのモデルが写っていることがほとんどであり、彼らはどんな服でも着こなしてしまう。これでは、服やコーディネートよりもモデルの素質に目が向き、参考になりづらい。一方、この提案では店員がチャオパニックのオリジナルブランドを日常で着用している姿がアップされる。こうすることで、スタイルが良いモデルだから似合うという印象を払拭でき、決してスタイルが良くない一般人でも自分に合ったコーディネーションを見つけやすくなるのである。こうすることで、顧客は自分に似合う商品を購買しやすくなるのではないか。

 繊研新聞(2016)によると、海外ファストファッションなど大型SPAの台頭に象徴されるように、市場にはモノがあふれ、商品の同質化も進んだ。今後も多くのアパレル企業が利益率の高い自社製品に頼ることになるだろう。一方で、セレクトショップがオリジナルブランド中心で仕入れ商品を少し販売する流れもまだ続くと予測される。その中で、チャオパニックが顧客に選ばれるためには、消費者により近い存在である店員のコーディネーションによって自社の商品をアピールすることで、オリジナルブランドについて消費者に伝えやすくなると考える。その結果、顧客は他社ブランドでなく、チャオパニックでの購買を選択し、自分に似合った商品を手に取ることができるのだ。

【参考文献】
井上近子 (2008)「経営改善に対応した売場リニューアルの実証分析―セレクトショップを中心としてー」『目白大学短期大学研究紀要』44, 239-253.
繊研新聞 (2016)「今アパレルビジネスに求められること」『繊研新聞』2016年5月13日,1.
繊維流通研究会 (2014)「来年からライフスタイル提案型の取り組みも強化」2019年12月12日閲覧. http://www.apparel-mag.com/abm/article/business/530
総務省 (2014)「平成26年度全国消費実態調査」https://www.stat.go.jp/data/zensho/2014/pdf/gaiyo2.pdf
商業界オンライン (2018)『パルグループHD 井上英隆会長の「これからの経営」』2019年12月12日閲覧. http://shogyokai.jp/articles/-/674?page=2
津久井悠太(2018)「いつも「新鮮な店」追求」『日経ビジネス』1963, 50-54.

にしむら(3年)

フォーエバー21が国内事業を続けるために

 ファストファッションブランドとは、世界的な流行をデザインに取り入れつつ、低価格におさえた衣料品を大量に生産し、短いサイクルで販売するブランドのことをさす。飯泉・津久井(2018)によると、2009年ごろからブームを巻き起こしたファストファッションブランドがかつての勢いを失っている。この原因として、「メルカリ」による中古市場の活況や「ゾゾタウン」によるインターネット販売の台頭などが挙げられる。さらに、日本経済新聞(2019)によると、米ファストファッション大手の「フォーエバー21」は2019年10月でオンラインストアも含め日本事業から撤退することとなった。しかし一方で、「GU」、「ZARA」などは最近店舗数を伸ばしている。

 では、なぜ国内でファストファッションブランドが低迷している中、「GU」や「ZARA」は店舗数を拡大でき、「フォーエバー21」は撤退する事態となってしまったのか。実際に私は2019年1月下旬、新宿にある「GU」、「ZARA」、「フォーエバー21」の3店舗に直接行ってきた。この時期は主に冬物の商品が多かったが、新作では何点か春物も取り入れられていた。まず「GU」では、トップスやインナーはシンプルなものが多く、アウターやパンツは最近の流行を取り入れたオーバーサイズのものやワイドパンツなどが置かれていた。次に価格帯としては全体的に低く、安いものは399円から1990円程度、高価格なものでも3990円から5990円程度のものが多かった。また顧客層としては20代から40代の女性を中心に20代前後の学生がちらほら見られた。次に「ZARA」では、トップスやインナーはシンプルなものよりも柄物や派手なものが多く見られた。アウターやパンツも普通のコートやダウンよりは、ZARA独自のシックな黒系のものやパリコレなどで見られるような他の人とはかぶらなそうなデザインのものが多かった。次に価格帯は「GU」と比べると高く、低価格なものでも2000円から4000円程度、高価格なもので7000円から15000円程度の商品が置かれていた。また顧客層は男女問わず20代〜50代であった。では、「フォーエバー21」に実際に行ってみると、若者向けな商品が多く、トップスはシンプルなパーカーなどもあれば柄物のシャツなども置かれていた。アウターは、デニムジャケットやMA-1などがあり、中には奇抜な色のブルゾンジャケットなども置かれていた。価格帯は「GU」と同じくらい低く、安いもので990円から2400円程度、高価格なもので3000円から6000円程度で売られていた。顧客層は男女問わず10代から20代が多かった。品質についても比較するために3店舗のロングTシャツを実際に比べてみると、「GU」は綿100%などの普通のロングTシャツだが、「ZARA」はシルク製のものもあり、他ブランドと比べると高品質であった。「フォーエバー21」はポリエステル100%で少し生地は薄かった。

 上記より、この3社では価格帯、顧客層、品質という面で違いがあった。まず価格帯では、「フォーエバー21」と「GU」の2社が同じくらい低価格で商品を提供しているのに対し、「ZARA」は高価格の商品が多かった。次に、顧客層では「GU」と「ZARA」の2社が20代から50代と幅広い顧客層に対し、「フォーエバー21」は若者の顧客が中心であった。最後に、品質面では比較的「GU」「ZARA」が高品質なのに対し、「フォーエバー21」は低品質であった。以上のことより「フォーエバー21」は顧客層や品質といった面で「ZARA」や「GU」より劣っていた。これが撤退の一因であったのではないかと考える。
 
 では、「フォーエバー21」が「ZARA」や「GU」のように人気のあるファストファッションブランドに対抗するにはどうすれば良かったのか。私は3つの取り組みが必要であったと考える。まず1つ目は、商品の品質の向上である。2009年ごろファストファッションが流行し始めた当時は安ければ消費者に買ってもらえたが、最近は安いだけでは消費者には受け入れてもらえない。その理由として、この数年間で多くのファストファッションブランドが台頭したからである。同じようなデザイン性で同じような低価格帯であれば、消費者は品質の差で判断する。実際に「フォーエバー21」にとって競合となったのは、先ほど挙げた「GU」である。「GU」は低価格に加えて価格に見合った品質の商品を提供することで人気を得ることができたと考える。したがって安さだけでない製品の品質という面が重要となってくる。

 2つ目は、顧客層の拡大である。「フォーエバー21」は若者を中心のターゲットとしてきたが、若者だけをターゲットに商品展開を行うのは難しかったと考える。有井(2016)によると、近年若者のファッション離れが起きており、若者がファッションに興味を示さなくなっているという。そうなると、「ZARA」や「GU」のように幅広い顧客層をターゲットとし若者以外の顧客から人気を得ることが必要となってくる。

 そして3つ目は、消費者の流行に敏感に対応することである。先ほども述べたように、ここ数年間で多くのファストファッションブランドが台頭した。そのため同じようなデザインの商品を扱う店舗が多く存在する。実際に3店舗に行ったときも全く同じではないが似ているデザインの商品をそれぞれの店舗で扱っていた。そうなると、いかに早く消費者の流行を捉えた商品展開を行えるかがカギとなる。この商品展開の速さで人気を獲得したのが「ZARA」である。波多野(2017)によると、「ZARA」は2週間というサイクルで新商品を導入し、消費者を飽きさせない商品展開を行っている。この流行を捉える速さが遅いと、他のファストファッションブランドに模倣され、デザインに差がない商品が提供されるのである。これら3つの取り組みを行うことで「フォーエバー21」も「GU」や「ZARA」に対抗できたのではないだろうか。

 しかし、国内で「フォーエバー21」が生き残こるのは、以上の取り組みだけでは難しかったと考える。なぜなら、上記の取り組みを行っただけでは、「GU」、「ZARA」に追いつくことができても、消費者から人気を得られるとは限らないからである。そのため「フォーエバー21」が生き残るためには、さらに差別化を図る必要があった。では、「フォーエバー21」がどのように差別化を図ったら生き残れたのだろうか。「フォーエバー21」の特徴は、主に低価格な商品を提供していること、多様なデザインの商品を扱っていること、店舗面積が広いこと、である。そこで、私は「フォーエバー21」にサブスクリプション型の家具レンタルサービスを利用する、これらの特徴を活かした新たな売り場づくりを提案したい。具体的には、「フォーエバー21」が家具レンタルサービスの企業から月額制で家具や雑貨を揃え、既存のアパレル商品と組み合わせた売り場づくりを行うことである。

 この提案によって「フォーエバー21」が差別化を図れる理由を2点挙げよう。1点目は、家具や雑貨を衣服の周りに取りそろえることで、消費者に「フォーエバー21」の衣服を着ているイメージを持たせることができる点である。現在の「フォーエバー21」の店舗は、衣服をただ並べているだけで、マネキンが着ている衣服もどこのシーンで着る服なのかいまいちイメージのしにくいものが多い。そこで、派手でポップなデザインの衣服には明るいカジュアルな家具・雑貨を揃えた空間を、ドレス系の衣服ならばゴージャスで大人びた家具・雑貨を揃えた空間を提供することで、消費者に衣服を着ているイメージを持たせることができる。Kotler(1974)によると、店舗空間の雰囲気は消費者の知覚的・感情的反応を刺激するので、消費者の購買意思決定において商品そのものよりも大きな影響を持つという。つまり、アパレル商品にあった売り場を作ることで消費者の購買意欲を高めることができると考える。2点目は、「フォーエバー21」の店舗面積を活用できる点である。「フォーエバー21」の店舗数は2019年10月現在で全国に14店舗あった。店舗数は少ないが、他のファストファッションブランドの店舗と比べてそれぞれの面積は大きい。この店舗面積の大きさを活用すれば、上述したような様々なライフシーンでの売り場づくりを提案することができる。
 
 では、なぜサブスクリプション型の家具レンタルサービスを利用する必要があるのか。理由としては2点ある。まず1点目に売り場づくりのための家具・雑貨を取り揃えるコストを抑えられるからである。例えば「subsclife」という家具レンタルサービス企業を利用したとしよう。subsclife(2019)によると、「subsclife」は60ブランドの中から店舗の要望に合わせた家具や雑貨を月額500円から提供してくれる。そのため、「フォーエバー21」が他社から家具・雑貨を仕入れるよりも低コストで売り場づくりを実現することができる。2点目に時期や消費者の流行に合わせて家具や雑貨を変えることができる点である。「フォーエバー21」の商品サイクルは基本4週間で新商品が店頭に並ぶ。このサイクルに合わせて店内の売り場を変えようとすると、家具・雑貨を購入するだけで非常にコストがかかる。しかし、サブスクリプション型で家具・雑貨をレンタルすることによって、安価かつ柔軟に家具・雑貨を変えることができる。そうすれば消費者の流行に敏感に対応することができ、顧客が実店舗に足を運ぶきっかけを作ることができると考える。
 
現在、国内では中古市場の活況やネット販売の台頭により、ファストファッションブランドが低迷している状況にある。特に海外から国内に進出してきた外資系ブランドの「オールドネイビー」や「フォーエバー21」はわずか十数年で日本から撤退している。今後国内でファストファッションブランドが生き残るためには、独自の強みを活かした店舗展開が必要である。「フォーエバー21」も強みを活かして、サブスクリプション型の家具レンタルサービスを利用し、自社のアパレル商品に合った売り場づくりを行うことができれば、日本国内でも生き残れたのではないのだろうか。

【参考文献】
FOREVER21 (2019) 「店舗案内」 2019年7月30日閲覧, https://www.forever21.co.jp/shop
波多野久美 (2017) 「ZARAの最速を実現する仕組み」『商業界ONLINE』 2019年5月16日閲覧, http://shogyokai.jp/articles/-/56
飯泉梓, 津久井悠太 (2018) 「メルカリ人気、格安衣料が失速」『日経ビジネス』1965, 11-5.
Kotler, P. (1974). Atmospherics as a marketing tool. Journal of Retailing. 49(4), 48-64.
日本経済新聞(2019) 「フォーエバー21破綻、日本など40カ国から撤退」『日本経済新聞』 2019年9月30日,夕刊, 3. 2019年10月31日閲覧.
Subsclife (2019) 「subsclifeとは」 2019年10月31日閲覧, https://subsclife.com/about-subsclife-2b/
有井太郎 (2016) 「『若者のおしゃれ離れ』は本当に行っているのか」 『DIAMOND online』 2019年5月8日閲覧, https://diamond.jp/articles/-/99973

すずき(3年)


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