コロナ禍において浮き彫りになったコンビニチェーンとしての「稼ぐ力」の差は、優勝劣敗の構図をより鮮明にした。磯貝(2022)によると、ローソンは平均日販で2021年2月期にファミリーマートに抜かれた。21年2月期の日販は、ローソンが48.6万円とファミマートの49.3万円を下回り、22年3月期も3番手に甘んじた。ローソンは品揃えの充実や売り場力の向上などの目標を掲げて経営改善に取り組んだが、業績の停滞が続いている。コンビニ業界自体店舗数が飽和したと言われる中で、朝と昼の売上だけで限界があるため、ローソンは2018年には夕夜間の強化という目標を掲げて復調を目指したが、コロナ禍に入って人が動かなくなり、朝や昼のピークすらなくなってしまった。その中で、ローソンの竹増社長は、コロナ後に人が動き出して朝・昼のピークが戻ってからも夕夜間の需要は必ず残ると考え、2020年9月に「大変革実行委員会」を立ち上げたのである。
ローソンは、セブンイレブンがネットコンビニに力を入れ、またファミリーマートが店舗のメディア化を目指すなどネットコンビニに注力している中、現場主義を貫きリアルな店で利益を追求しようとしている。なぜなら、竹増社長は「どこかに人との触れ合いや温かさがあるお店であり続けたい」と考えているからだ。実際ローソンでは、「レジがある」「店員の接客を受けられる」というリアル店舗を軸としたデジタル化を進め、顧客が来店することで、『楽しい』『便利だ』『ほっとする』と感じてもらう戦略を目指している(IT mediaビジネスオンライン, 2018)。
さらに、加工食品が売上の53.4%を占めるローソンは(日本経済新聞社編,2021)、その強みを一気に活かすために店内キッチンで調理を行う「まちかど厨房」の店舗導入を始めた。そうすると、2022年3月・4月の販売高は前年同期比で約4割伸張するなど、復調の兆しを見せている。
では、ローソンがこのように現場主義を貫くことで競合他社に打ち勝つことはできるのだろうか。
私は、打ち勝てないと考える。なぜならば、竹増社長が考える中食を拡大するという経営戦略を実現するためには、現場に十分な人手が必要となるからである。まず、レジの業務から考えていこう。かつては商品の販売がほとんどだったレジでの業務は、公共料金の収納代行、宅配便の取り扱いなど、多種多様になってきた。そしてこれらの業務は、ただレジ打ちをしていた時よりも手間や時間がかかるので、従業員に大きな負担をかかる。しかし、業務が増大にしているにも関わらず、コンビニの従業員の時給は一般的に安価のままである。したがって、レジと品出しに仕事が限定されているスーパーマーケットの募集には人が集まるが、コンビニで募集してもなかなか応募もなく、いい人が集まらず、人が入っても長続きしていないことが多い。されに、コンビニの主な従業員である学生や主婦は、深夜帯や早朝の勤務がどうしても難しいため、夕夜間の人手不足はより深刻さを増している。
この状況を改善するため、近年ローソンは、短期の勤務を対象にしたオンラインの人材マッチングサービスの実証実験を始め、単発のバイトなど短期の人材採用のためのマッチングサービス「matchbox」で一時的な人手不足の解消を図ろうとしている(DIGITAL X 編集部,2021)。しかしこれだけでは、長期的な人手不足の解決には至らない。
この状況で導入を始めたのは「まちかど厨房」である。「まちかど厨房」はローソンが店舗に「専用のキッチン」を作り、そこで作った弁当やおにぎり、サンドイッチを提供するものである。一般的な弁当やおにぎりは食品工場で作ったものを販売しているが、まちかど厨房では各店舗に設置したキッチンで仕上げることによって高品質の中食を提供するという差別化を実現し、食にこだわる消費者のニーズを獲得したのである。その一方で、品質管理のために標準化プロセスを導入した「まちかど厨房」の展開は、従業員に調理を行わせるなど現場の大きな負担となっているが、この状況を改善するためには、スタッフの増員を行うしか手段はない。しかし、このような負担感の高い店舗で募集を行っても、人は集まらないのである。つまり、ローソンは新たな成長の源泉を加工食品に置いたにもかかわらず、その実現のための人手を確保できない状況に陥っている。従って、まちかど厨房に力を入れつつレジで高度な接客を目指すのは、短期的に顧客満足度を高めて、客を集められることが間違いないが、長期的に見れば人手不足に大きく制約されているので、人手不足が解消されない限り、ローソンは現場主義を貫くことで競合他社に打ち勝つことができないと私は考える。
では、省人化しにくいまちかど厨房に力を入れながら、人手不足の問題を解決するにはどうすればいいだろうか。私は、一般のコンビニの募集と分けて、まちかど厨房に専業する人に職位を設け、他の飲食店と同等の給料で募集することを提案したい。
まず、まちかど厨房に専念する従業員を募集することによって、通常のコンビニ店員と比較して、心理的・身体的な負担が減少し、また勤務時間の削減も可能になるため、今までよりも応募が増加すると予想される。これにより、レジ業務や品出しに自信がない人や接客が好きではない人、また自分の料理の経験を十分に活用できるシニア主婦も応募しやすくなるだろう。そして、大都市のサラリーマンのランチタイムはほぼ12時から13時台であり、ディナータイムも19時から20時と、限られた時間に7割が集中している。そこで、この限られた時間帯の賃金のみ上げることによって、現在コンビニがほぼ最低賃金で雇用している状況が改善されるので、今までよりも応募しやすくなるだろう。これにより繁忙期の人材も確保でき、また働く人の増加も見込めるのである。
ドミナント戦略で高いシェアを持っているセブンイレブン、業務提携や経営統合を繰り返して攻勢を強めているファミリーマートなどと激しい競争環境に直面しているローソンは、まちかど厨房の導入などといった中食を通じて難局打開を図ろうとしている。しかし、人手不足のままではまちかど厨房の展開は難しい。もし時給を一般的な飲食店程度で求人できれば、今後注力すべきまちかど厨房と言った領域での人手不足が解消できる。競合他社による無人化に進むコンビニ業界において、現場主義というローソンの戦略を実現するためには、人手の確保が最優先に求められるのである。
【参考文献】
DIGITAL X 編集部(2021)「ローソン、コンビニの店舗スタッフの確保に短期人材採用サービスを実証実験」 https://dcross.impress.co.jp/docs/usecase/002029.html 2023/04/05閲覧
不破聡(2022)「コロナ禍でのコンビニ大手3社の業績を比較してわかったセブンイレブンが強い理由」『DIME』https://dime.jp/genre/1306397/ 2023/04/05閲覧
磯貝高行(2022)「現場百遍で見えた未来」『日経ビジネス』2140, 44~48.
IT media(2018)「ローソンが目指す近未来の“デジタルコンビニ”と顧客体験の全容」『IT mediaビジネスオンライン』https://www.itmedia.co.jp/business/articles/1811/06/news003.html 2023/04/05閲覧
日本経済新聞社編(2021)『2022年版日経業界地図』日本経済新聞出版社.
らい(3年)
ローソンは、セブンイレブンがネットコンビニに力を入れ、またファミリーマートが店舗のメディア化を目指すなどネットコンビニに注力している中、現場主義を貫きリアルな店で利益を追求しようとしている。なぜなら、竹増社長は「どこかに人との触れ合いや温かさがあるお店であり続けたい」と考えているからだ。実際ローソンでは、「レジがある」「店員の接客を受けられる」というリアル店舗を軸としたデジタル化を進め、顧客が来店することで、『楽しい』『便利だ』『ほっとする』と感じてもらう戦略を目指している(IT mediaビジネスオンライン, 2018)。
さらに、加工食品が売上の53.4%を占めるローソンは(日本経済新聞社編,2021)、その強みを一気に活かすために店内キッチンで調理を行う「まちかど厨房」の店舗導入を始めた。そうすると、2022年3月・4月の販売高は前年同期比で約4割伸張するなど、復調の兆しを見せている。
では、ローソンがこのように現場主義を貫くことで競合他社に打ち勝つことはできるのだろうか。
私は、打ち勝てないと考える。なぜならば、竹増社長が考える中食を拡大するという経営戦略を実現するためには、現場に十分な人手が必要となるからである。まず、レジの業務から考えていこう。かつては商品の販売がほとんどだったレジでの業務は、公共料金の収納代行、宅配便の取り扱いなど、多種多様になってきた。そしてこれらの業務は、ただレジ打ちをしていた時よりも手間や時間がかかるので、従業員に大きな負担をかかる。しかし、業務が増大にしているにも関わらず、コンビニの従業員の時給は一般的に安価のままである。したがって、レジと品出しに仕事が限定されているスーパーマーケットの募集には人が集まるが、コンビニで募集してもなかなか応募もなく、いい人が集まらず、人が入っても長続きしていないことが多い。されに、コンビニの主な従業員である学生や主婦は、深夜帯や早朝の勤務がどうしても難しいため、夕夜間の人手不足はより深刻さを増している。
この状況を改善するため、近年ローソンは、短期の勤務を対象にしたオンラインの人材マッチングサービスの実証実験を始め、単発のバイトなど短期の人材採用のためのマッチングサービス「matchbox」で一時的な人手不足の解消を図ろうとしている(DIGITAL X 編集部,2021)。しかしこれだけでは、長期的な人手不足の解決には至らない。
この状況で導入を始めたのは「まちかど厨房」である。「まちかど厨房」はローソンが店舗に「専用のキッチン」を作り、そこで作った弁当やおにぎり、サンドイッチを提供するものである。一般的な弁当やおにぎりは食品工場で作ったものを販売しているが、まちかど厨房では各店舗に設置したキッチンで仕上げることによって高品質の中食を提供するという差別化を実現し、食にこだわる消費者のニーズを獲得したのである。その一方で、品質管理のために標準化プロセスを導入した「まちかど厨房」の展開は、従業員に調理を行わせるなど現場の大きな負担となっているが、この状況を改善するためには、スタッフの増員を行うしか手段はない。しかし、このような負担感の高い店舗で募集を行っても、人は集まらないのである。つまり、ローソンは新たな成長の源泉を加工食品に置いたにもかかわらず、その実現のための人手を確保できない状況に陥っている。従って、まちかど厨房に力を入れつつレジで高度な接客を目指すのは、短期的に顧客満足度を高めて、客を集められることが間違いないが、長期的に見れば人手不足に大きく制約されているので、人手不足が解消されない限り、ローソンは現場主義を貫くことで競合他社に打ち勝つことができないと私は考える。
では、省人化しにくいまちかど厨房に力を入れながら、人手不足の問題を解決するにはどうすればいいだろうか。私は、一般のコンビニの募集と分けて、まちかど厨房に専業する人に職位を設け、他の飲食店と同等の給料で募集することを提案したい。
まず、まちかど厨房に専念する従業員を募集することによって、通常のコンビニ店員と比較して、心理的・身体的な負担が減少し、また勤務時間の削減も可能になるため、今までよりも応募が増加すると予想される。これにより、レジ業務や品出しに自信がない人や接客が好きではない人、また自分の料理の経験を十分に活用できるシニア主婦も応募しやすくなるだろう。そして、大都市のサラリーマンのランチタイムはほぼ12時から13時台であり、ディナータイムも19時から20時と、限られた時間に7割が集中している。そこで、この限られた時間帯の賃金のみ上げることによって、現在コンビニがほぼ最低賃金で雇用している状況が改善されるので、今までよりも応募しやすくなるだろう。これにより繁忙期の人材も確保でき、また働く人の増加も見込めるのである。
ドミナント戦略で高いシェアを持っているセブンイレブン、業務提携や経営統合を繰り返して攻勢を強めているファミリーマートなどと激しい競争環境に直面しているローソンは、まちかど厨房の導入などといった中食を通じて難局打開を図ろうとしている。しかし、人手不足のままではまちかど厨房の展開は難しい。もし時給を一般的な飲食店程度で求人できれば、今後注力すべきまちかど厨房と言った領域での人手不足が解消できる。競合他社による無人化に進むコンビニ業界において、現場主義というローソンの戦略を実現するためには、人手の確保が最優先に求められるのである。
【参考文献】
DIGITAL X 編集部(2021)「ローソン、コンビニの店舗スタッフの確保に短期人材採用サービスを実証実験」 https://dcross.impress.co.jp/docs/usecase/002029.html 2023/04/05閲覧
不破聡(2022)「コロナ禍でのコンビニ大手3社の業績を比較してわかったセブンイレブンが強い理由」『DIME』https://dime.jp/genre/1306397/ 2023/04/05閲覧
磯貝高行(2022)「現場百遍で見えた未来」『日経ビジネス』2140, 44~48.
IT media(2018)「ローソンが目指す近未来の“デジタルコンビニ”と顧客体験の全容」『IT mediaビジネスオンライン』https://www.itmedia.co.jp/business/articles/1811/06/news003.html 2023/04/05閲覧
日本経済新聞社編(2021)『2022年版日経業界地図』日本経済新聞出版社.
らい(3年)