ドーナツの潜在ニーズとは

 クリスピー・クリーム・ドーナツ・ジャパン(以下クリスピー・ドーナツ)は現在、運営の抜本的な改革を行っている。岡本(2016)によると、多店舗化の結果、立地や人材の問題により現状全ての店舗において、顧客に「かわいく、おいしい商品を、温かみのある接客を受けくつろげる店舗空間で食べてもらう」という「Joy」の価値を創造するという使命が実現できていない。そこで、各店舗の質向上と運営効率の向上を目的とした、店舗エリアの集約と店舗の閉店、リニューアルを行っている。

 そこで、私は実際どのように運営の抜本的な改革が行われているか、2016年7月12日にリニューアルオープンされたクリスピー・ドーナツ北千住ルミネ店のリニューアル前とリニューアル後に客として行ってみた。確かに、くつろげる店舗空間の構築ということで、一人掛け用の座席がポール形状の腰が痛くなるタイプから、人一人がゆったりと座ることのできる通常のものに変わっていた。しかし、複数人で座るための机や座席は変化を見て取ることはできず、内装などの色彩や雰囲気を変更しているわけでもなかった。また、レジ前での会計の並び方などにも変化は見られなかった。

 このように運営の抜本的な改革といっても、客として見た場合あまり変化を感じることのできないものであるならば、私は岡本氏の戦略よりも優先してやるべきことがあると考える。有馬(2016)は、なぜクリスピー・ドーナツが不振になったかについて、甘すぎる味がネックとなり、顧客が魅力を見出せなくなったと指摘している。多店舗化を行う前のクリスピー・ドーナツは、店舗数が少なかったため並ばなくてはならず、現在より簡単に購買することができなかった。たまにしかお目にかかることのできないドーナツであったため、ある意味その甘さがプレミア感の証であったのだ。しかし、多店舗化によって比較的購買しやすくなった現在ではそのプレミア感が薄れてしまった。むしろ、顧客はチェーン店を選ぶ際、メニュー、料理の内容を最も重視している(河野・武田・須永・水野 2016)ので、その甘さが、「甘すぎる、くどい」などといった顧客の飽きを引き起こしてしまったのではないだろうか。

 では離れてしまった顧客をどのようにして再び引きつければよいのか。確かに、運営の抜本的な改革も重要なプロセスではあるが、私は甘さ控えめなドーナツの提供を提案したい。なぜなら、現在、顧客のドーナツへの「潜在ニーズ」として、甘さ控えめなドーナツが求められていると考えるからだ。

 ここで、日本とクリスピー・ドーナツの生まれ故郷であるアメリカの砂糖消費量を比べてみよう。2013〜15年度の両国の年間砂糖消費量の平均は、日本が2,157トンで、アメリカの平均が10,882トン(農畜産業振興機構 2016a)と、日本はアメリカの砂糖消費量の約5分の1である。これは、アメリカの人口が日本の人口の約2.5倍ということを加味しても少ない。さらに、2015〜2016年の日本人の年間砂糖消費量予測は17.2kg /人で、アメリカ人の年間砂糖消費量予測は33.0kg /人(農畜産業振興機構 2016b)である。つまり、日本人の砂糖消費量はアメリカ人に比べると少なく、甘いものを消費していないことが分かる。したがって、既存の甘いドーナツを販売していても多くの日本人の好みに合わないのではないだろうか。

 さらに、Beck & Schatz(2014)によると、アメリカ人のカロリー摂取量も減少し、食生活がやや健康的になってきている。この健康志向の表れを考慮すれば、現在、欧ファンドに身売りするなど決して経営良好ではない(河内 2016)米クリスピー・ドーナツの経営の再建にも、この甘さ控えめなドーナツが一役買うのではないだろうか。なぜなら、アメリカのクリスピー・ドーナツのメニューを見てみると(Krispy Kreme Doughnuts Corporation 2016)、9割以上の商品がカロリーの高そうなトッピングでテカテカになっており、いかにも不健康そうに見える。したがって、健康志向が高まりつつあるアメリカでも、甘さ控えめなドーナツの需要があるのではないか。これは、ゼロカロリーコーラを売り出していながら通常のコーラも売り出しているコカ・コーラの戦略と通ずる部分もある。既存のいかにも不健康そうなドーナツを売り出しつつも、「いつもは甘さ控えめのドーナツも買っているから、たまにはこれ(いかにも不健康そうな既存のドーナツ)も買っていいわよね!」という甘いもの好きの「甘え」を誘発することにつながるのだ。こうすることによって、日本のクリスピー・ドーナツにも、アメリカのクリスピー・ドーナツにもさらなる売上を生み出せるのではないか。そして、仮に甘さ控えめなドーナツのアメリカへの導入が難しいとしても、日本とアメリカ両国間のクリスピー・ドーナツのメニューには違いがあるので、日本独自に甘さ控えめなドーナツを提供することは可能である。
 
 現在クリスピー・ドーナツの顧客は、多店舗化により購買しやすくなったクリスピー・ドーナツに魅力を見出せていない。しかし、潜在ニーズを探りそれにマッチした商品・サービスを提供することで、企業は長期的に競争優位を確立できる(川上 2005)。クリスピー・ドーナツにとって、甘さ控えめなドーナツを提供することは顧客の潜在ニーズに応えることのできる商品だ。甘さ控えめなドーナツがマスコミに取り上げられることで、顧客に再びクリスピー・ドーナツに関心を持ってもらい来店してもらう。甘さ控えめなドーナツに加え、既存のドーナツもついでに購買してもらうことでさらなる売上を生み出すことにもつながるだろう。そこで、甘さ控えめなドーナツの提供により競合他社に対して競争優位を確立できれば、クリスピー・ドーナツは再び日本に根付いていくことができるはずだ。


【参考文献】
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岡本光太郎 (2016) 「大量閉店は再挑戦への布石」 『日経ビジネス』1839, 88-89.


ちば (2年)

京都市が財政難を脱却するには〜富裕層の呼び込みを強めるバックパッカーの役割〜

 京都は現在、米国で発行されている観光雑誌の一つ『Travel+Leisure』で観光人気都市世界1位を2年連続で獲得するなど、外国人観光客に人気である。京都市(2014a)によると、「平成26年の(外国人観光客の)宿泊客数は、前年より70万人増え、183万人となった。日本全体の宿泊客数が1,341万人なので、7人に1人が京都に宿泊している。」という計算になる。
 
 この結果から分かるように、現在、京都の観光はとても活況である。しかし、これほど観光が活況なのにも関わらず、京都市の税収は伸びていない。その理由として、飯田(2016)は、「宿泊施設や飲食店といった観光業で働く人の75%が非正規雇用であることが無関係ではない。」と指摘している。そこで京都市では正規雇用者を増やすため、観光客の中でも富裕層をターゲットにする戦略を考えている。実際に2014年には高級ホテルのザ・リッツ・カールトンがオープンし、2016年の秋には、フォーシーズンホテルなどのオープンも予定されている。その理由として、門川(2016)は、「一泊5万〜100万という高級ホテルや旅館があったとする。従業員は付加価値の高いサービス提供を求められますが、その見返りとして正社員として雇われたり、高い収入が増えたりします。こうした施設が増え、正規雇用者も増え、回りまわって市の税収増にもつながる。」ということを挙げている。そもそも、なぜ高級ホテルを増やし、正規雇用者が増加すると、京都市の税収は増えるのか。京都市の市税の中には個人市民税というものが存在する。この税の仕組みに所得金額×6%の金額を税金とする所得割という制度があるので、所得が増えれば増えるほど税収入も増えるのである。このように、高級ホテルを誘致することで市の税収を増やす、というのが京都市の戦略である。

 わたしはこの戦略が有効であると考える。現在、京都にはたくさんの文化財が存在する。また、京都市内には橋が2900ヵ所あり、その99%を市が管理していて耐震補強もしなければならない(飯田2016)。したがって、これらを保護し維持していくためには莫大な資金が必要である。実際に京都市(2015)は、「本市の大都市特例事務に係る経費は170億円、一方これに対応する税制上の措置済額は51億円で、措置不定額は、実に119億円である。」と述べている。このように京都市は財政難なのである。これを解消するためには、富裕層をターゲットにした観光客の増加により税収入を増やすことが必要である、と私は考える。

 しかし、私は観光客の中でも富裕層だけに目を向けるのではなく、バックパッカーのような観光客にも目を向ける必要があると考える。なぜなら、バックパッカーにはSNSを通した情報拡散力があるからである。新井(2013)は、「バックパッカーのスマホ所持率は約8割と高い割合である。そして、スマホ利用のメインとなっているのはSNSの使用である。」という。なぜ、彼らはSNSを利用するのだろうか。バックパッカーのSNSの利用意識について、新井(2013)は4つの象限があるという。第1象限は必要情報の受信・発信である。これは、グーグルで検索を行ったり、ブログをアップして他者に情報を発信することである。第2象限は情報消費(情報へのアクセス)である。いわゆる暇つぶしのように情報にアクセスすること自体を利用目的とすることである。第3象限は表出コミュニケーション(特定他者へのアクセス)である。これは、Twitterなどで他者との場の共有やコミュニケーションを目的とすることである。第4象限は伝達コミュニケーションである。これは、第3象限と似ているが、違う点としてはメールのやり取りなど他人に公開されずに身内との情報交換などを行うことである。今回、私はバックパッカーの情報拡散力を考えたうえで、第1・3象限に注目した。なぜこの二つに注目したかというと、バックパッカーは旅行に行く際、あらかじめ情報を得るために他のバックパッカーのブログを閲覧するだろう。また、バックパッカーは比較的長期に滞在をするため、メジャーな観光地だけでなくマイナーな場所に訪れる可能性がある。そのような場所はInstgramなどのSNSで写真がアップされることによって、それが拡散していき話題となる可能性が上がると考えるからである。それは単にバックパッカー内だけの拡散ではない。そのような場所がNile’s NILEやAgoraのような富裕層向けの雑誌に取り上げられることで、さらにそれらの雑誌を見た富裕層にも情報が拡散していく。そして、他の観光客がまだあまり行ってない中で、そのようなマイナーな場所に自分は行ったぞという優越感を得たい富裕層が京都に訪れるのである。そうして、多くの富裕層が来京し、彼らが京都にお金を落とすことで、税収が増え、回りまわって京都市の税収が増え、財政難脱却につながっていく。これが京都市にバックパッカーも呼び込む必要があると考えた理由である。

 だが、バックパッカーは比較的長期滞在者が多いため、リッツ・カールトンのような高級ホテルだけでなく、低予算で泊まれる施設も必要である。そこで、低予算でも宿泊できる施設を整えるにはどうしたらよいのだろうか。飯田(2016)は、「現在、京都市には旅館が5000室ある。その内、旅館の稼働率が約7割と、まだ余裕がある。そこで、稼働できていない旅館を利用していく。」と述べている。たしかに旅館を利用していくことも有効だが、旅館の稼働率も約7割とそこまで低くないので、限界がすぐにきてしまうと考えられる。そこで、私はまだあまり使われていない民泊を利用していくべきだと考える。民泊を利用する行政側のメリットとしては、年々増え続ける空き家など使われていない施設や建物を利用できるということが挙げられる。実際に京都市の空き家は、2008年は110,290戸、2013年は114,500戸(Kyotobnb 2014)と5年間で4,210戸増えているという現状がある。そこで、これらの空き家を利用し民泊に使うことで空き家問題の対策にもつながる可能性がある。そしてバックパッカーの民泊を利用することでのメリットとしては、仝獣呂琶襪蕕垢茲Δ並攤澆できる、現地の人や旅人との交流ができる、I當未任惑颪泙譴覆い茲Δ文沈的な場所に泊まれる、じ獣呂梁慮海できる(Travel.jp 2016)ということが挙げられる。しかし、一番のメリットは値段の安さである。大半の民泊では、かつて寮として使われていたものを利用しているため、比較的値段がリーズナブルで低予算でも泊まれるものとなっている。実際に民泊を提供しているAirbnbのサイトを見てみても平均して4000~5000円程度の価格帯となっている。以上のことから、空き家にも活用でき、またバックパッカーにも多くのメリットがあるので、私は民泊の利用を提案したい。

 しかし、民泊にも安全性の問題が存在する。京都新聞(2016)によると、「京都市は(2016年1月16日)に民泊実態調査を行った。最大手の仲介サイトに2542件が登録されているが、所在地を特定できたのは679件にとどまり、その大半が旅館業法に基づく市の許可を受けていない。」という。このような状況があると旅行者は安心して民泊を利用できない可能性がある。そこで京都市は、観光や衛生、消防などの担当職員でプロジェクトチームを作り、2015年12月から8つの仲介サイトに掲載された情報を調査し始めた(波多野 2016)。そして、京都市は認可した民泊の営業だけを認める方針であり、旅館業法上の許可がない違法なケースが見つかった場合は営業を中止させ、悪質な場合は刑事告発も視野に入れる(波多野 2016)という。また、安全性の問題を解決していくためにホームページで市が認可した民泊の情報を掲載し、より安全に宿泊できるための情報を提供している。さらに、通報専用窓口「民泊通報・相談窓口」を開設(2016年7月12日)し、民泊のトラブルに早急に対応できるように備えている。このように着々と民泊の安全性を解決する取り組みが行われ始めているので、バックパッカーのような低予算で旅行を考える観光客も安心して宿泊できるのではないだろうか。

 現在、京都市は財政が厳しい状況である。そこで観光客の中でも富裕層をターゲットにし、京都市の税収を増やしていこうとしている。現在は観光人気都市世界1位だが、いつこの人気が落ちてくるかは分からない。そこで、さらなる観光客を集めるためにはバックパッカーの呼び込みも必要だと考える。バックパッカーの情報拡散力を利用し、世界の富裕層の観光客をさらに呼び込んでいくことで、一人一人の所得が増え、回りまわって京都市の税収も増えていく。このような正のスパイラルを回すことで京都市は財政難から脱却していけるのではないだろうか。

【参考文献】
Airbnb (2016)「京都の民宿を探すなら−現地に溶け込む旅を体験」 https://www.airbnb.jp/s/%E4%BA%AC%E9%83%BD%E5%B8%82--%E4%BA%AC%E9%83%BD%E5%BA%9C/?          af=6968636&c=search_d_jpn_jpn_dom_p2_txt_irep&dclid=CPWQ2YL80s4CFcEcvAodONkDYg&s_tag=XZVzGRXd 2016年8月21日閲覧.
新井克弥 (2013) 「バックパッカーの情報行動」『関東学院大学文学部紀要』129,17-42. http://library.kanto-gakuin.ac.jp/webopac/bdyview.do?bodyid=Nl30000521&elmid=Body&lfname=link/005.pdf 2016年6月22日閲覧.
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うすくら(2年)

ソニーフィナンシャルホールディングスの介護事業戦略

 ウォークマンやポータブルラジオなどで一世を風靡したソニーが、生命保険、損害保険、銀行に続き、介護事業に参入した。宗像(2015)によると、ソニーが60%出資する金融持ち株会社ソニーフィナンシャルホールディングス(以下ソニーFH)は、2013年に神奈川県横浜市にあるぴあハート藤が丘という介護施設を買収し、介護事業への本格的な参入を表明した。さらに2015年に老人ホームなどを運営するゆうあいホールディングスへ資本参加し、2016年に東京都世田谷区に介護付き有料老人ホーム「ソナーレ祖師ヶ谷大蔵」をオープンしているといった形で、介護事業の拡大を進めている。

 ソニーFHは新たに展開している介護事業を生命保険、損害保険、銀行に次ぐ「第4の柱」と位置づけ、まずは10〜15年をかけ銀行事業と同等の規模にする見込みである。

 ソニーFHは新事業を展開する際に、既存事業者では出来ない古い慣習の打破を試みている。ソニーFHが行う介護事業では2つの点で新たな試みが行われている、と宗像(2015)は指摘をしている。まず一点目に、「ソニーらしい介護」として高品質、安心感を提供していること。二つ目に、介護施設に必要なケアマネージャーに加え、「ライフマネージャー」と呼ばれる役職の人材を配置することである。これは既存の介護施設にはない、入居した老人のライフプランを考える専任人材のことであり、彼らのサポートによって、入居者に対しより充実した生活を送ってもらうことが狙いとしている。

 私はソニーFHの介護事業参入に対して経営戦略の面から賛成である。賛成の理由は2点ある。まず1点目の理由は、他社にはない新たな試みを行っていることである。また、2点目の理由として、金融事業とのシナジーを生み出せることである。まず、1点目の新たな試みの点としては、ソニーFHは独自の「ライフマネージャー」という役職を配置している点である。将来何が起こるのかわからない不安と戦う入居者にとって、一般の介護施設にはケアマネージャーしかいないが、ソニーFHの介護施設に入居すればともに今後のライフプランを考え、有意義な老後人生を送るために頼るべき存在である「ライフマネージャー」がいるのである。彼らの存在によって、資産面などでも安心感をもたらすことが出来る。

 また、他社にはない新たな試みの重要なポイントとして、「ソニーらしい介護」がある。ソニーFHのHPによると、生活面においては、入居者の一人一人に合わせた居室を設計するというものである。例えばトイレやベッドの位置など身体状況に応じて入居者に合った居室を提供し、ドアは遮音性が高いなど睡眠やプライバシーにも配慮している。食事も入居者の方が時間を自由に選択でき、入浴も個浴なのか大浴場で他の方と入るのかが選択できるシステムになっている。また、入居者の方の体を配慮し、腰痛予防としてリフト等の福祉機器を導入し、「持ち上げない介護」を推進している。ケアの面においても、上記の「ライフマネージャー」に加え、看護職の24時間常駐体制を採用している。このような取り組みによって、医療依存度が高くなっても安心して長期間住み続けられる「終の住居」として、他社の介護施設よりも選択される可能性が高まるだろう。

 上記のように他の介護施設にはない高品質な製品・サービスを取り入れることで、便利さや快適さを入居者の方に提供することが出来る。これらの「ライフマネージャー」の存在や、「ソニーらしい介護」といった高品質なサービスを提供することによって、顧客の需要をしっかりと満たし、また他社との差別化が図れるのではないだろうか。
 2点目の理由として、介護事業がソニーFHの強みである金融事業とのシナジーを生み出せる、ということが挙げられる。ソニーFHのコア事業は金融である。したがって、介護事業は一見全く関係のない非関連多角化ではないか、と消費者は疑問を抱くかもしれない。しかし、介護事業は他の事業としっかりとした繋がりを持っている、と私は考える。ソニーFHが狙う顧客層は、生命保険、損害保険、銀行などの金融事業すべてに渡り富裕層である。生命文化センター(2012)によると、実際に介護を受けたことがある人の月々の介護における支出は、平均7.7万円である。それと比較し、ソニーFHが展開する「ソナーレ祖師谷大蔵」は、前払い約1500万円に加え、月々の利用料が約23万円となっている。全国の支出平均を3倍以上も上回っていることから、ソニーFHが狙う介護事業の顧客が富裕層であることが明らかであろう。従って、介護事業を展開し、ソニーFHが運営する介護施設に老人が入居した際に、入居者の方、もしくはその家族が富裕層である可能性は高い。その場合、ソニーFHとして比較的高価格帯の介護保険の加入などを、本人だけでなく家族などに対しても勧められるだろう。つまり、入居している老人だけではなくその家族に対しても、グループサービスである生保・損保の加入を勧めることが出来るのである。このように、介護事業を起点に顧客に提案する商品を増やすことが出来るので、グループ全体の売り上げを上げることにつながるのではないか。

 では、今後ソニーFHにおける介護事業の発展には何が必要か。私は、金融事業以外の事業とのシナジーの創出が必要であると考える。その中で私は、ソニーグループ全体として介護事業と美容事業のシナジーに注目した。なぜなら、松崎(2013)によると、「企業グループの最大の目的は、グループシナジーの創出であり、単体や関連のない事業の集合体ではなく、企業全体に付加価値を与える事業を連結しなければならない。」とあるからだ。一見、美容と介護はシナジーが起きないと思うかもしれない。一般に高齢者は介護施設に入居することで、美意識が低下したり美しさを保てなくなったりというイメージをもたれているが、現在では老人の家に直接出向いて散髪する訪問美容師という職業や、またそれを専門とする企業も存在する。そこで、介護施設で高齢者の美容のニーズを満たすビジネスを展開することで、介護事業と美容事業のシナジーが創出できるのではないだろうか。

 そのシナジーとは何か。それは双方の事業の需要拡大である。例えばソニーの美容事業では、小型肌測定器を製造・販売している。これはソニー本体が強みをもつ画像解析技術を用いているので、他社製品と比較し高品質であり、使い方もシンプルでわかりやすい。これをソニーFHが開設している介護施設に導入するのである。そうすることで、ソニーFHの介護施設の入居者は、毎日自分の肌が若返るのを感じることによって、楽しみを持つ事が出来るのではないだろうか。また、それを見える化することで、美しくなろうという気持ちをもち、体を動かしたりといった機能の向上にも繋がる可能性がある。このようなことで、入居者の満足度を高められるのではないだろうか。また、このような測定器を導入することによって、介護と美容という一見何の関係もないものを同時に行なう取り組みが、メディアなどの注目を浴び、ソニー自体のブランドイメージが上がり、介護や美容の認知度も向上することにつながる。そうすると、ソニー本体の美容事業の認知度も高まるので、化粧品店やエステ店といった新たなに販路を拡大することができる。これらの取り組みにより、多くのサンプルデータを蓄積することが出来るので、新たな肌測定器の開発にも役立つだろう。

 近年、介護事業に多くの企業が参入してきている。その中で、ソニーFHの介護施設をより多くの人が利用し、利益を拡大していくためには、現在取り組んでいる新たな試みや金融事業とのシナジーを求めることが必要である。しかし、更なる事業の展開のためには、グループ本体の他事業とのシナジーも創出することが求められるだろう。一般的に、うまくいかないとされる非関連多角化の中で、どうシナジーを創出するのかが、事業の成功につながる可能性を秘めている。その意味で私はソニーFHの介護事業の展開に期待したい。

参考文献
松崎和久 (2013) 『グループ経営論 その有効性とシナジーに向けて』 同文館出版
宗像誠之 (2015)「ソニーフィナンシャルホールディングス 介護参入にソニー魂」『日経ビジネス』1841 70-74
日経テレコン (2016)「ソニー系の老人ホーム、4月から入居募集、月額利用料23万円」https://t21-nikkei-co-jp.stri.toyo.ac.jp/g3/CMNDF11.do 2016年7月1日閲覧
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ソニー株式会社HP 「ニュースリリース」 http://www.sony.co.jp/SonyInfo/News/Press/201502/15-010/ 2016年3月5日閲覧
ソニーフィナンシャルホールディングスHP「プレスリリース」http://www.sonylifecare.co.jp/news/pdf/release20150928.pdf,2015年11月23日閲覧

さとう(3年)

地域における図書館の役割とは


 本、CDやDVDを貸し出しているTSUTAYAを運営しているCCC(カルチュア・コンビニエンス・クラブ)が新しい形の図書館を展開している。CCCのホームページの情報によると、最初は2013年に佐賀県武雄市が、「武雄市という5万人の町に、『代官山 蔦屋書店』を持ってきてほしい」という依頼をしたことがきっかけである。さらに、2015年に神奈川県海老名市にもオープンしている。そして、山下(2015)によると、今回新たに愛知県小牧市の駅前にもツタヤ図書館を建設しようとしている。小牧市に新図書館を建設する目的として、老朽化した図書館を駅前に移転新築することで小牧市の賑わいを創出することが挙げられている。また、駅前に図書館をただ新しく建設しただけではこれまで図書館を利用してもらえなかった人々に来てもらうことができないと考え、従来のように静かに本を読む場所ではなく、お茶を飲みながら本を読んだりコミュニケーションをとったりというような、新しい図書館の使い方を提案したいと考えていた。そのため、今回CCCに指定管理者を委任したのである。しかし、2015年10月14日に小牧市で住民投票を行なったところ、建設反対が過半数を占める結果になり、CCCとの新図書館計画が事実上白紙になった。

 その要因として、市民の考えと市の意向がすれ違ってしまったことが挙げられる。日経アーキテクチュア(2016)によると、2013年4月13日に行なわれた山下市長と市民とのタウンミーティングで図書館計画については「まだ白紙である」と市長が発言していたにもかかわらず、その二週間後には、新図書館を駅前に新築し連携民間事業を公募型プロポーザルで選定する方針であることが、中日新聞によって報道された。このことがきっかけで、市長の提案は市民に強い不信感を与えることになった。そして、急ピッチに図書館計画を進める市に対しての不信感は次第に肥大化し、結果として住民投票での賛成票を十分獲得することができなかったのである。

 私も現状のまま図書館を建設することに反対である。理由は、市民の意見を十分に取り入れずに計画を進めてしまったやり方を見直すべきであるからだ。上記で触れた要因を踏まえた上でも、まずは市民が小牧市に対して抱いている不信感を払拭し、市民の意見や考えをもっと取り入れていく姿勢を市は整えるべきである。小牧市に図書館を建設した時一番利用するのは市民であり、その市民が不信を抱くような図書館を建設すべきではない。

 また、市民が抱える不安は、小牧市のやり方だけでなくCCCに指定管理者を委任することにもある。例えば、すでに運営をしているツタヤ図書館での追加で購入した書籍が古本であったことや、コアなニーズにしかないような余分な本を追加購入しているという選書問題だ。小牧市でツタヤ図書館を建設した際にも、このような問題が浮き彫りになり、小牧市の図書館のイメージが悪くなるならば、CCCに指定管理者を委任したくない、と考える市民も少なくないだろう。さらには、CCCの提案する図書館は公共施設としての役割を逸脱する恐れもある。彼らが提案する図書館は、書架が階段状にセットバックし吹き抜けるというつくりである。確かに魅力的な空間であるが、小さい子どもや体が不自由な人が本をとりづらくなり、転落や事故の原因にもなりかねない。本来、図書館は特定の市民にとってではなく、あらゆる市民にとって快適な空間とサービスを提供することを目指さなければならない。そのため、特定の人にとってよい施設であっても、それによって一部の人が不便に感じるような施設は作るべきではないと私は考える。したがって、上記のように問題や懸念点が多く生じるならば、CCCに委任する必要性がないと考える。

 しかし、山下(2015)が述べていたように、今までのやり方通り図書館をただ新しく建設しただけでは、これまで図書館を利用してもらえなかった人々を集客できず、賑わい創出につなげることができないのも確かである。また、CCC(2015)によると、すでに運営されている武雄市のツタヤ図書館は、2013年4月からの2年半ほどで図書館の来館者数は延べ200万人を超え、9月の調査では利用者の85%が「大いに満足」「満足」と回答している。このことから、CCCが提案するカフェのような居心地のよい空間やサービスのやり方は、これまで図書館に魅力を感じていなかった人々を呼び込み、新たな利用者を開拓しているのも事実である。

 ただし、新しい形の図書館を建設する際にも考慮しなければならないことは、図書館の本質的な役割であると私は考える。永浜(2016)によると、慶応大学文学部糸賀教授は、公共図書館が担う本質的役割とは利用者が問題や課題を解決し、社会的な価値を得る学びの場であると述べている。また、図書館法によると、図書館とは図書、記録その他必要な資料を収集し、整理し、保存して、一般公衆の利用に供し、その教養、調査、研究、レクリエーションに資することを目的とする施設である。つまり、地域の発展と住民の暮らしを支えるために基本的な業務を努め、住民の学びを後押しし、人々が趣味などを楽しんだり問題を解決できたりできるような情報を提供する必要がある。確かに地域の賑わい創出をするために新たな利用者を獲得しなければならないことはもちろんであるが、今まで図書館を利用していた人々が図書館から離れてしまっては意味がない。本来の図書館の役割やサービスを重視した上で、更なる利用者を獲得する努力をしていかなければならないのだ。よって、CCCのように既存の図書館から大きく飛躍する提案ではなく、本来の役割を果たした上で新たな来館者を獲得することを目指した図書館を建設すべきであると私は考える。

 その点既存の小牧市図書館は、本の収集や整理、保存などの基本的な役割をきちんと果たせていたと考える。小牧市(2006)によると、所蔵している本の内容に満足している人(61%)や本の探しやすさに満足している人(67%)は多い。このことから、利用者の満足度は比較的高いことがわかる。よって、新しい図書館を建設した際にも今まで通り基本的な業務をしっかりこなすことができれば、既存の利用者は満足すると考える。一方小牧市(2006)によると、これからの図書館がどうあって欲しいかという問いに対して、「趣味に関する知識を得る場」(40%)「教養を身につける場」(37%)「いろいろな情報の収集や発信の拠点」(36%)が上位に挙げられている。つまり、既存の小牧図書館は学びや問題解決を後押しできるような情報を提供する役割を十分に果たせていないことがわかる。これを解決するためには、上記のための情報を提供することが必要であるのではないだろうか。

 そこで私は、小牧市図書館に子育て世代に対して上記が可能になるような場や機会をつくることを提案する。小牧市の人口の変化に注目してみると、年々高齢化率が上がっていることのほかに、小牧駅周辺2キロ圏内の年齢別人口は25歳〜35歳及び0歳〜4歳つまり、子育て世代の人口比率が愛知県全体に比べて高くなっていることがわかる(小牧駅周辺整備計画作成協議会,2009)。さらに、内閣府(2015)によると、子育てをする人にとって「地域」が重要であると回答するものは、9割を占めている。その内容として、「子育ての悩みについて気軽に相談できる人や場があること」(58.1%)、「子育てをする親同士で話ができる仲間作りの場があること」(54.5%)が上位に挙がっている。これらのことからも、小牧市において人口比率が高まっている子育て世代に対して悩みや考えを共有できる場や機会を提供することで新たな来館者を獲得することができるのではないだろうか。

 ではなぜこのような場や機会が図書館に必要なのだろうか。それは、図書館自体がすでに無意識的に子育て支援を行なっているからである。一般的に図書館では子どもを対象に定期的に絵本や紙芝居を読み聞かせるおはなし会を開催していたり、児童図書以外にも育児書や子育てに役立つ書籍が所蔵されていたりと専門的知識や情報はすでに揃っているはずである。もともと図書館が行っていた子育て支援の土台を活かしたうえで、意識的に子育て世代に対する支援の場や機会を提供することができれば、彼らが抱えている問題や課題に対して図書館がいろんなアプローチの解決策を提示することができるのではないか。
 
 ただし、単発的ではなく、継続的に子育て世代に対する支援の場や機会を提供することが重要であると私は考える。例えば、保育士といったような専門家を「育児コンシェルジュ」として雇い、その人を中心に子育て世代がちょっとした悩みの相談や会話ができるコミュニケーションの機会を定期的に提供するサービスを実施する。そうすることで、一度きりの開催ではなかなか見えてこなかった子育て世代の抱えている問題を一定程度解決することができるのではないだろうか。しかし、図書館は情報を収集する面では優れているものの、人々を集客するような仕組みづくりや実施・運営に関するノウハウが足りない。だからこそ、そのような部分においては民間企業のノウハウを活用することが必要なのではないだろうか。このように、子育て世代を集客することで地域の核となるような新たな図書館をつくることができるのではないかと考える。

 新しい図書館を建設しようと奮闘した小牧市であったが、市民の意見を十分に取り入れることができず結果的にCCCの提案する新図書館は事実上白紙になってしまった。確かに、地域の賑わいを創出し、地域を盛り上げるためには今までにない図書館を提案することも一定程度必要なことかもしれない。しかし、既存の図書館に求められていた本質的な役割を疎かにしてまで変革を行なうことが果たして必要なのだろうか。むしろ、小牧市が抱えている現状を見つめ直し、どうすれば小牧市の賑わい創出に繋がるのか、目の前の問題から考え検討することが必要であると考える。小牧市に限らず、全国の図書館がその地域に密着し、市民に求められている役割が何であるか考え直し、地域の核になるような図書館を目指してほしいと私は願っている。

参考文献
CCCHP「武雄図書館」http://www.ccc.co.jp/showcase/sc_004056.html?cat=life 2015年11月18日検索
CCC (2015)「武雄市図書館・歴史資料館の利用状況について 」2016年5月16日検索
http://www.ccc.co.jp/news/pdf/20151001_ccc_takeo.pdf 
小牧駅周辺整備計画作成協議会(2009)「小牧駅周辺整備計画」2016年5月16日検索
https://www.city.komaki.aichi.jp/dbps_data/_material_/_files/000/000/003/330/keikaku1.pdf
小牧市(2006)「図書館に関するアンケート調査報告書」 2016年5月2日検索
http://www.city.komaki.aichi.jp/dbps_data/_material_/_files/000/000/016/247/sanko1-1h18anketo.pdf
小牧市(2012) 「小牧市における都市交通の問題と課題」2016年5月16日検索
https://www.city.komaki.aichi.jp/dbps_data/_material_/_files/000/000/003/151/03-1mondai_kadai.pdf
宮沢洋,江村英哲(2016)「『住民投票』という突然の審判 戦術にたけた反対派、建設者は『なすすべなし』」
『日経アーキテクチュア』2016/2/25,40-45.
永浜敬子(2016) 「『TUTAYA』参入で波紋…あり方が問われる新しい図書館」
『日経TRENDY』 2016/02, 134-137.
山下史守朗(2015)「『ツタヤ図書館』否決も諦めず」『日経ビジネス』 1815, 138-139.

わだ(3年)

ソイレントがより多くの顧客に受け入れられるためには

 2013年創業の米国企業ローザ・ラブスは、「ソイレント」という完全食品を販売している。完全食品とは、それだけで一食分に必要な栄養素を摂取可能な食品のことである。開発したのは同社の社長であるロブ・ラインハート氏で、自らの仕事に明け暮れた生活において食事の無駄を省こうと考えたことがきっかけであった。青木(2014)によると、彼は元々シリコンバレーの地で仕事に没頭していたが、その際食事を安く済まそうとハンバーガーやピザを食べ続けるも一週間で挫折。このことから彼は栄養について勉強し、試行錯誤の末液状完全食品ソイレントを完成させた。

 Economist(2015)によると、ソイレントはかつてニッチ市場に向けて販売されていたという。消費者の時間と金を節約するという狙いの通り、食事を用意するコストと煩わしさを嫌う仕事中毒者達や、作業を止めたくても止められない環境に置かれたビジネスパーソンがソイレントの主な購買層となり、予約待ちという状況が続いていた。しかし、2015年1月時点で2000万ドルの出資金を受けた結果、製造ラインを50倍にすることとなり、その状況も解消されてきている(Temperton, 2015)。また、ソイレントは粉末から液体へと変化したことで味と風味が改良され、現在ではアメリカの一般消費者にまで受け入れられ始めている(Mims, 2015) 。つまり、かつてニッチなものであったローザ・ラブス社の獲得している市場は、今日一般消費者にまで広がったのである。

 しかし、ローザ・ラブス社の市場における期待を踏まえると、ソイレントの現状の受け入れられ方はまだまだ不充分であると私は考える。なぜならば、同社存続のためのリスクヘッジを考えなければならないためである。現在は順調なローザ・ラブス社であるが、他の競合企業がいつ追随してくるかわからない。そこで、よりアメリカの一般消費者にソイレントを受け入れてもらうために、彼らに対し新たなアプローチをかけることが必要であると私は考える。

 では、どのようなアプローチをかければアメリカの一般消費者によりソイレントを受け入れてもらえるだろうか。私は、ソイレントを非常食として売り込むことを提案したい。ソイレント2.0が非常食に適する理由は2点ある。1点目は、栄養を過不足なく摂れることである。災害発生から物資や炊き出しを手にするまでに3日かかるとして、その間たんぱく質や脂質以外の栄養素が摂れないことは健康上非常に望ましくない。体力や気力の面でも、健康な食事をとることは大切である。ソイレントは1本(約400ml)で一食分の栄養素を補うことが可能であるため、誰でも簡単に栄養補給ができる。

 2点目は、道具などを用いず容易に摂取できることである。現在販売されている非常食の中には、水を入れて調理しなければならないものや缶切りを用いて開封しなければならないものが数多くある。しかし突然の災害に見舞われてしまったら、これらの非常食が使えなくなってしまう可能性も低くない。水を持ち出せず缶切りを用意できなかったとしても、ソイレント2.0はキャップをあけるだけで栄養を摂取することができるため、災害時において効果的であると私は考える。

 このように、ソイレントを非常食として販売していくことはその完全食品という特徴を活かすことができる。また、非常食として販売したとしても、新たな製品改良は必要ないためローザ・ラブス社にとってもコスト面の負担は大きくない。先程挙げた他の競合製品にはない特徴を活かし、非常食として販売していくことで、ソイレントは現在より多くの顧客に受け入れられるのではないだろうか。

【参考文献】
青木薫 (2014) 「完全食品ソイレントが突きつけるもの 」『現代ビジネス』講談社 2015年 10月13日 閲覧 http://gendai.ismedia.jp/articles/-/40076
lchistoper Mims (2015) The End of Food Is Here, Finally http://www.wsj.com/articles/the-end-of-food-is-here-finally-1454302860 2016年3月7日 閲覧
James Temperton (2015) Soylent just raised $20 million The Wall Street Journal http://www.wired.co.uk/news/archive/2015-01/15/soylent-funding 2016年3月7日 閲覧
Rosa Labs, LLC (2015) soylent.com -free your body- https://www.soylent.com/ 2015年10月13日 閲覧
The Economist (2015) Food technology Liquid lunch http://www.economist.com/news/business/21665068-startup-called-soylent-wants-change-way-people-consume-calories-liquid-lunch?fsrc=scn/fb/wl/pe/st/liquidlunch 2015年10月13日閲覧参照, 訳 日経ビジネス (2015) 「注目浴びる完全食品―ソイレント」『日経ビジネス』 1809,124.

いたがき(3年)

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