インポスター症候群の克服

 インポスター症候群とは「人々が自分の成果を自分のものとすることができない心理的現象」と定義されるものである(Jackson & Heath, 2014)。広野(2020)によると、社会人がインポスター症候群に陥った時に一番問題となるのは、自信がなくなった結果として動揺し仕事が手につかなくなったり、業務のパフォーマンスが落ちたりすることである。ナラヤン・パント教授によると、このような動揺を抑えるためには、感情をコントロールするうえでの「気づき」「自覚」が重要であるという(広野, 2020)。なぜならば、なぜそんな感情が生まれるのか冷静に自己分析ができれば、その感情に振り回されることはなくなるからである。こうした感情への気づきや自覚によって、自分の中のネガティブな思考を無力化し、インポスター症候群を改善することができるという。

 このようにパント教授は、自分の感情への「気づき」や「自覚」によってインポスター症候群に伴う症状や問題を抑えることができると説明しているが、そこからインポスター症候群を克服することはできるのだろうか。私は、「気づき」や「自覚」だけではインポスター症候群を克服することはできないと考える。

 なぜなら、インポスター症候群の人は自分に高い理想を持っていて常に完璧な人間だと思われようとするため(広野, 2020)、たとえ自覚症状があったとしても、現状を変えるために行動を起こすとは考えにくいからだ。Clance & Imes(1978)によると、自分の症状やネガティブな思考に気づいても、「自分は周りを騙している」と思い込んでいるためにそれを止めることができず、むしろ現状を維持するために努力する傾向があるという。また、インポスター症候群においてネガティブ思考を自覚することは、周りの人を騙していることへの実感をより強めるということである。そのため、ネガティブ思考への自覚には大きなストレスを伴うと考えられる。実際にRicheson & Trawalter (2005)は、自分がネガティブな思考を持っているという自己認知が表出抑制を促し、それが自己制御の意欲や能力が低下した状態(Baumeister et al., 1998)である自我消耗を引き起こすことを示している。確かに、自分の中にあるネガティブな感情を自覚することは、一時的には冷静さを取り戻すことにつながるかもしれない。しかし、繰り返されるネガティブ思考への認知は、長期的な視点でみると自己の感情制御にマイナスの影響を及ぼしているのである。このようにインポスター症候群の解決策としてネガティブ思考を自覚することは、現状維持や自我消耗を引き起こすため、結果的には逆効果となる。したがって、気づきや自覚による自己分析だけでは、インポスター症候群を克服することはできないと考えられる。

 私は、インポスター症候群の克服のためには2つの事が重要であると考える。1つ目は、同じ症状を持つ人と交流を持ち、悩みを共有することだ。なぜなら、自分と同じ症状の人と互いに悩みを共有することで、同じ悩みを持つ仲間がいることへの安心感を得ることができると考えるからである。悩んでいるのは自分だけではないという安心感は心に余裕を持たせ、心に余裕ができると自分のことだけではなく周りの人や環境へ視野を広げることができるようになる。

 しかし、インポスター症候群に陥っている人は自己肯定感が低いために、周囲の人や環境に目を向けることができるようになったとしても、肯定的な意見を素直に受け入れて自分の考え方に反映させることは難しい。そこで、2つ目に毎日小さな目標を設定して達成することが必要であると考える。なぜなら、最初は達成出来て当たり前だと思うようなことでも、毎日の達成感が積み重なることで自分が自信を持つことの出来る能力の範囲が広がっていくと考えるからだ。インポスター症候群は「自分の成果を自分のものとすることができない心理現象」であるが、それは自分の考えていた能力以上の成果が出たときに強く感じるものだ。そこで、まずは自覚している能力の範囲内で目標を決め、達成できたら少しハードルを上げた目標を立てるというプロセスを毎日繰り返すことで徐々に自己肯定感を高めていくことができる。例えば会社で働く人の場合は、その日に最低限達成しなければいけないことをあらかじめ明確にしておくことが大切である。そして、その日の目標を達成することができれば、次の日の目標タスクを増やしたり仕事内容のレベルを上げたりといったことで、日々積み重なる達成感から少しずつ自己肯定感を高めていくことができるのである。このようにして自己肯定感が高まれば、他者からの肯定的な意見や評価を素直に受け取ることが出来るようになるだろう。

 そして他者との交流は、ネガティブ思考への気づきや自覚をしても思い込みを止められない、また自覚によって自我消耗を引き起こすといった問題を防ぐことができると考える。その第一の理由は、他者との交流によって周りの人や環境に目を向けることができるようになれば、自分の考え方や価値観が広がっていくからである。自分とは違う意見に触れることで、自分の考え方に多様性を持たせることができる。考え方の幅が広がれば、Clance & Imes(1978)で問題とされていた「周りを騙している」という強い思い込みについて自ら考え直すきっかけとなるのである。第二の理由は、他者に対して自分のネガティブな思考・感情を打ち明けることは、自己の内面の表出を意味するからだ。ふだん表に出していないネガティブな思考を少しでも他人と共有することで、常態的な表出抑制によるストレスを軽減させることができると考えられる。そして、そのストレスが軽減すると自己の感情制御をするための精神的余裕ができるので、Richeson & Trawalter (2005)で言及されていた自我消耗をも防ぐことができるのである。

 インポスター症候群の克服のためには、「自分は周りを騙している」「能力のある人間ではない」といった強い思い込みを無くすことが必要不可欠である。同じインポスター症候群の人と悩みを共有することで安心感が生まれ、周囲の人々の意見に耳を傾けることができるようになる。さらに、毎日小さな目標を達成していくことで自分に自信が持てるようになり、自己肯定感の向上を助ける。このようにして、他者との交流や日々の目標達成を続けていくことが、インポスター症候群に悩む多くの人々へその克服を可能にする一つの手段となるのではないだろうか。

【参考文献】
Baumeister, R. F., & Bratslavsky, E., & Muraven, M., & Tice, D. M. (1998).Self-control depletion : Is the active self a limited resource? Journal of Personality and Social Psychology, 74, 1252-1265. doi: 10.1037/0022-3514.74.5.1252.
Clance, P., R., & Imes, S., A. (1978). The Impostor Phenomenon in High Achieving Women: Dynamics and Therapeutic Intervention. Psychotherapy: Theory, Research & Practice. 15 (3), 241–247. doi: 10.1037/h0086006.
広野彩子 (2020) 「『自分は無能』と誰もが思う」『日経ビジネス』 2047, 90-91.
Jackson, D., & Heath, T. (2014). An antidote to impostor syndrome. XRDS: Crossroads, The ACM Magazine for Students. 21(2), 12-13. doi: 10.1145/2685027.
Richeson, J. A., & Trawalter, S. (2005).Why do interracial interactions impair executive function? A resource depletion account. Journal of Personality and Social Psychology, 88, 934-947. doi: 10.1037/0022-3514.88.6.934.

もりもと(2年)

追跡アプリの導入

 広岡(2020)によると、中国政府はコロナ感染のさらなる拡大を防ぐために、健康コードという新しいプログラムを導入した。健康コードはスマホ画面上で表示するQRコードであり、持ち主の新型コロナウイルスの感染リスクを「緑」「黄」「赤」の3段階で示す。このリスクの程度は、中国政府のデータベースの情報を基に自動的に判定される。このプログラムを利用するには、施設に用意されたQRコードをアプリで読み込む。このアプリは、様々な場所で入場する時に提示を求められたり、様々な施設や公共交通機関で確認されることもある。健康コードのシステムは地方によって違うが、もはや「デジタル通行手形」と言われるほど、中国人なら基本的に誰でもスマホに入れている。中国政府は普及させた健康コードを通じて人々の移動履歴を把握し、結果としてコロナの拡大を防いでいる。

 なぜこの健康コードは短期間に中国で普及することができたのだろうか。私は、中国人がプライバシーよりも便利さを重視するからであると考える。田中(2018)によると、中国のユーザーは自分にとって便利になる状況があれば、プライバシーを譲り渡すことに抵抗がなく、それどころかむしろ喜んで提供すると言われている。しかも、中国には人々の身分は数秒間で判明する「天網」という監視システムがあり、プライバシーを守りたくても守れない状況がある。だからこそ、プライバシーよりも、便利さを重視せざるを得なくなり、結果として健康コードが普及したのではないだろうか。

 では、このように中国では短期間に普及した追跡アプリを、日本政府は短期間に日本国民に普及させることはできるのであろうか。私は短期間に普及させることはできないと考える。その理由は2点ある。

 1点目は、中国人と日本人のプライバシーに対する捉え方が違うことである。前述したように、中国人は便利さのためにプライバシーを犠牲にすることも厭わない。一方で、日本人は便利さよりもプライバシーを重視する。田中(2018)によると、日本では個人情報は本人同意のうえでのみ公開することが一般的であり、その範囲も最小限にとどめられている。さらに、日本社会では、便利さや効率をある程度犠牲にしても、プライバシー「権」を守らなければならないという考え方が一般的である。これらのことから、日本ではコロナウイルスに関する情報を集めにくく、追跡アプリが実効性を持つことは難しいといえる。

 2点目は、プライバシーに関する法律の違いである。楊(2018)によると、中国の憲法にはプライバシーやプライバシー権に関する規定はなく、関連する法律も規定も相対的に弱い。言い換えると、中国では政府が人々の情報を自由に扱うことができるのである。それに対して、日本の個人情報保護法は、犯罪歴、信条や病歴などの取得には原則事前の同意を必要とするなど、個人のプライバシー権が手厚く保護されている(安藤, 2017)。つまり、日本では政府が勝手に人々の情報を利用することは認められていないのである。

 そして、このような日本人のプライバシーに対する考え方の変化や法律の改正を短期間で行うことは難しいと私は考える。なぜなら、人間の固定観念はその人が今までの経験や教育によって積み上げてきた考え方であり、簡単に変えることはできないからである。また、手続きを含めると、法律の改正には最低でも数ヶ月はかかってしまう。したがって、中国のように追跡アプリを日本で短期間に普及させることは難しいと考える。

 実際、日本政府は2020年6月から新型コロナウイルス接触確認アプリ(COCOA)を導入したが、9月15日までのダウンロード数は1692万件と、人口の1割に過ぎなかった。そして、その中の陽性登録件数は767件しかなかった(厚生労働省, 2020)のである。しかし、COCOAは、人口の6割に普及しないと効果が出ないと言われている。つまり、新しいアプリを国民にインストールさせることはかなり難しいのである。

 では、感染の拡大を防ぐために、日本政府はどうすればよいだろうか。私は政府による電子追跡システムの構築を提案する。電子追跡システムとは、通信会社と協力し、携帯電話のアンテナの電波を追跡するものである。この追跡方法は細胞定位法と呼ばれており(謝, 2020)、実際に台湾で用いられている。このシステムは特にアプリを必要としない。感染者の滞在した場所に15分以上自分がいたときには、携帯電話にメッセージが送られる。このメッセージが送られると感染の可能性がわかるので、PCR検査を受けたり自分の健康状態に注意を払ったりするなど、相応な行動を取れるようになる。これによって、わざわざアプリを入れなくても感染拡大を防ぐことができるだろう。そして、このシステムはただ携帯電話の電波を追跡し特定の携帯番号にメッセージが送られるだけなので、日本に導入されているCOCOAと同じように、個人情報を侵害するものではないのである。

 しかし、台湾で導入された電子追跡システムは必ずしも完璧なものではない。なぜなら、感染者と接触可能性がある人に送られるメッセージには、明確な場所や時間などは示されていないからである。また、基地局の範囲は広いので、誤差も出る。実際、感染者と100メートルの距離があってもメッセージが送られる可能性もあるのだ(謝, 2020)。したがって、台湾のシステムをそのまま日本に導入しても、COCOAよりも効果が出るとは言えないだろう。

 それではその誤差を少なくするにはどうすればよいだろうか。私は感染者が出た飲食店を表すコロナマップの構築を提案したい。コロナマップとは過去2週間感染者が立ち寄った店の情報を開示するものである。その情報をコロナマップに公開することによって、電子追跡システムからメッセージを送られた人は、感染者と接触した可能性をより正確に判断できるようになるのである。このコロナマップを構築するためには、情報開示の許可をもらう代わりに、例えば無料消毒や補助金といったインセンティブを与えるなど、企業やお店の協力を欠かすことはできないだろう。

 この際、個人の感染情報収集についてはLINEと連携したいと私は考える。なぜなら、総務省(2018)によると、日本におけるLINEの利用率はおよそ60%と、最も高いからである。協力する飲食店は、店の中にQRコードを設置する。顧客はそのQRコードをスキャンすれば、自分はいつその店にいたのかという情報を、自分のスマホのLINE keepに保存できるようにするのである。この情報は感染した際に保健所や病院からもらう感染番号と一緒にコロナマップのLINE公式アカウントに送信する。そうすると、万が一自分が感染者になった場合、どの店に行ったのかを正確に伝えることができるようになる。この際に「個人情報(姓名や年齢)を除いたあなたの過去2週間の行動履歴をコロナマップ上に開示することに同意しますか」というLINEメッセージに同意することで、感染者本人の意思も確認できるだろう。また、現在のところ多くの患者は軽症だと言われているので、自ら情報を提供することも可能だと考えられる。

 この電子追跡システム×コロナマップの利点は3点ある。1点目は、新しいアプリのインストールの必要がないことである。既に普及しているLINEと連携することで、自分の行動履歴を記録できるからである。2点目は、台湾の電子追跡システムより正確な点である。なぜなら、感染者との接触可能性というメッセージが送られた人にはコロナマップを閲覧することにより、その誤差を減らすことができるようになるからである。3点目は、国民が自由に閲覧できることである。この提案ではLINEアプリをインストールしていなくても、インターネットが使えさえすればコロナマップを閲覧できる。したがって、コロナマップさえ見ることができれば、国民は自ら感染した可能性を確認できるのである。そして、その可能性が高かった場合、自分で保健所に通報してPCR検査を受けるといった仕組みができれば、感染拡大の可能性を低下させることができるのだ。

 新型コロナウイルスの拡大防止にあたり、追跡アプリによるプライバシーの侵害は大きな課題である。中国のように政府が国民を追跡することは、日本ではなかなか受け入れられないだろう。そこで、国民自ら個人履歴を記録し、自らの同意の上で位置情報を提供する「電子追跡システム×コロナマップ」は、プライバシーを侵害しないシステムとして、日本で受け入れられる可能性が高いだろう。このような対策を行うことで、新型コロナウイルスのさらなる拡大防止に貢献できるのではないか。

【参考文献】
安藤均 (2017)「「忘れられる権利」は新しい人権かー「忘れられる権利」をめぐるプライバシーの検討―」『旭川大学経済学部紀要』76, 71-100.
広岡延隆 (2020)「国家丸ごとデジタル化 国民監視と産業振興」『日経ビジネス』2042, 30-33.
厚生労働省 (2020)「新型コロナウイルス接触確認アプリ(COCOA) COVID-19 Contact-Confirming Application」2020年9月16日閲覧, https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/cocoa_00138.html
総務省 (2018)「ソーシャルメディアの利用状況」『情報通信白書』2020年10月7日閲覧, https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h30/html/nd142210.html
田中信彥 (2018)「「中国人すごい」の底にある個人情報への鷹揚さ」『日経ビジネス』電子版 2020年6月11日閲覧, https://business.nikkei.com/atcl/opinion/16/041100064/101500010/
謝佩如 (2020)「怎麼知道我去過?21萬人收到提醒簡訊,如何不靠GPS追蹤足跡」『商業週刊』電子版 2020年8月16日閲覧, https://www.businessweekly.com.tw/focus/indep/6001621
楊鳳春 (2018)「中国のインターネット管理下における政府権力の拡張と国民の電子情報活動権益の保護」『アジア太平洋討究』32, 183-195.

ちん(2年)

センスメーキング イン オーガニゼーションズ(序文・第一章)

【要約】
 センスメーキングとは、「ある種のフレームワークの中に異なるものを置くこと」「共通理解などのために相互作用すること」といったことである。センスメーキング的思考とは、形式的に決まった方法(アルゴリズム)で物事を考えるのではなく、自己発見的に事象を類推するような形での物事の考え方に関する心の持ち方であると本書では述べられている。信じ難い事象が起こった時にまずその事象にどのようにして気づくのか、そしてどのようにして回顧し、推測し、周りに浸透させていくのかといった際の思考法がセンスメーキング的思考であると言えるだろう。しかし、周りに異なる事象を浸透させていくまでには中心性の誤謬が発生してしまうということも本書にて述べられている。これは、共通認識が強い組織や専門性の高い組織において、組織的な例外に気付きにくかったり、異端な事例は信じ難かったりすることによって、組織的にセンスメーキングが受け入れられないことを指している。

 また本章ではセンスメーキングの特徴から、解釈との違いについて述べている。解釈の定義は「需要可能で近似した翻訳」である。つまり解釈という営みは、既に世界のなかに存在しているテクストに対して行うものなのである。既に存在しているテクストが発見され近似されるのを待っている状態であり、これを見つけて理解することを本書では「発見すること」と表現している。一方本書においてセンスメーキング的プロセスは「発明すること」であると言われている。解釈では普通、解釈の必要性と対象が明確になっているが、センスメーキングにこのような前提はなく、そもそもものごとを所与として扱っても良いのかといった疑問からセンスメーキングはスタートしているのだ。そして異端な事象に関して明らかにするために過去起こったことを振り返っていくという回顧的要素も、センスメーキングの特徴と言える。センスメーキングは自分の解釈するものを自分達で生成していくことだと本書では述べられている。このように解釈に先立つ発明に焦点を当てているという点や、より高次の社会参加を暗示するという点においてセンスメーキングは価値があると言われている。

 本章の中で筆者は「センスメーキングはメタファーではない」という主張をしている。Morganは、テクスト、言語ゲーム、センスメーキングの3つをメタファーであると論じており、これら3つがすべて有意味な行為の創造について理解することに関わっているということを述べているのだ。しかし筆者は、センスメーキングという行為を解釈的活動とは別次元の行為として分離することによって、この論理階型上の混同を分離している。センスメーキングとは起こっている状況を異なる言葉にして表すことではなくて、状況をその状況の言葉のまま意味あるものにしていく活動であるということを述べている。

【ディスカッション】
 本書では、「実際の現実世界では、問題が所与として現れることはない」「もともと何もない不確実な状況に意味を付与しなければならない」「リーダーとは意味を付与する者である」と述べられている。このように、センスメーキングにおいては、不確実な状況から問題設定を行うことが重要であるようだ。しかし、ここではリーダーや自分自身が、不確実な状況のなかから「問題」に気付くことが暗黙の了解となっている。では、どのようにしたら問題に気付く(見つける)ことができるのだろうかという疑問をもった。

 そこで、「ゼミ生として不確実な状況下でどのように問題設定力を鍛えられるか」というディスカッションテーマを定めた。このディスカッションでは、チーム研究でのインタビューを例に行った。私たちはチーム研究で企業にインタビューを行うが、聞きたいことが聞けなかったという問題が起きたことがあるだろう。では、事前に我々はどうすれば有効な回答を得ることが出来たのだろうか。条件として、発表まで1ヶ月しかなく、その期間内で出来ることを考えてもらった。

 今回の議論では様々な意見が出たが、ゼミ生からの意見は大きく三つに分けることができると考える。第一に、普段のゼミでの努力である。インタビューで相手がポロっと言ったことに気付くようにするために相手の話をよく聞く力・それを自分の中で解釈する力を身に着ける、聞けない中でも粘る力を身に着けるために普段のゼミの場で当事者意識持って発言しておく、などが挙げられた。

 第二に、事前準備である。事前に他の研究の方向性を準備しておく、解釈に関する問題を減らすために質問を考える時点で回答まで考えておく、事前にそうならないように精緻化しておく、質問だけでなく相手への聞き方も考える、事前に様々な資料読んでおく、広い視点で見ておく、インタビュー内容についてチーム内でしっかり話し合う、解釈が違った場合にどう動くのかについてまで考えておく、などが挙げられた。

 第三に、周囲の人との協力である。指針や目標を設定するために先輩に鍛えられ方を聞く、先生などに前もって模擬インタビューをしてフィードバックを得る、などが挙げられた。

 このように本ディスカッションでは、普段のゼミでの努力・事前準備・周囲の人との協力が重要であることが分かった。これらは、短い時間であっても事前に行うことができることであるため、インタビューを行う前にしっかり行っていく必要があるだろう。中野ゼミ生は必ず企業にインタビューする機会があるので、今回のディスカッションを活かしてインタビューを行っていこう。

よしだ(4年)

世界標準の経営理論(第41章, 終章 pp764-803)

【要約】

 理論とはそれ単体で存在していても真に価値を発揮することはない。理論が真に価値を持つためには、理論を現実と照らし合わせ検証する必要がある。逆に現実の現象を注意深く観察して、新たな理論を浮かび上がらせる必要があるのだ。こうした理論を実証するための分析方法はいくらかある。その実証分析のプロセスを知ることは、一般のビジネスパーソンにおいてもとりわけ重要性を増してくる。すでに一部の企業でその取り組みが広がっていることもそうだが、特に我々が普段から「実証分析のようなこと」を実践しているからに他ならない。そして今はその実証分析の入り口に立ちやすくなっているのだ。統計的な分析であれば、豊富なアーカイバルデータの蓄積がある。質問調査票の作成は容易になっている。集めたデータを統計解析してくれる簡易的なツールもある。事例研究でも録音や撮影はスマートフォンでできる。こうすることで聞き漏らしを減らすことができるだろう。このように我々が実証分析を行うハードルは間違いなく低くなっているといえる。これらを利用しない理由はない。

 本書には目的と狙いが明確に存在している。目的はもちろん経営学の主要理論を各ディシプリンにまたがって体系的に解説することである。一方、本書における狙いとはビジネスの現場で活躍するビジネスパーソンの方に、経営理論を「思考の軸」として活用してもらうことである。所謂理論ドリブンの思考を身に着けることである。具体的に本書に挙げられた経営理論を思考の軸にして活用する視座は三つある。一つ目は、真の意味で「経営理論」は存在しないということである。経営理論はあくまで他のディシプリンを借りているに過ぎないからである。これ以上経営理論について知見を深めるためには経営理論を放棄することなのだ。二つ目は、経営理論を深く知るためにこの本以上の経営学書はないということである。先ほども述べた通り経営理論は借り物であり、深めるためには各ディシプリンについて深めて行くことが必要になるだろう。そして三つめは、経営理論を信じてはならないということである。理論はあくまで思考の軸に過ぎないからである。考えるためには軸が必要である。その軸は決して「答え」ではない。軸は思考をクリアにする羅針盤の様なものである。経営理論は数多ありえる思考の軸の一つに過ぎないのである。だからこそ軸、畢竟経営理論を「答え」として信じてはいけないのである。それを基に考え続ける必要があるのだ。

【ディスカッション】

 今回は本書のP,796、最終節のタイトルにもなっている「思考の解放」について議論した。本書では経営理論を思考の軸にして議論を重ねることで思考の解放がなされると著述されている。しかし、そもそも「思考の解放」とは何なのかについて特に言及されているわけではない。では「思考の解放」とは何なのだろうか。そんな素朴な疑問に端を発したディスカッションである。

 今回のディスカッションは実証分析という呈をなしている。少なくともそのように設計した。実際に本書でいわれるように「経営理論を思考の軸にして様々な人たちと共に、現実のビジネスについて議論する」といったことを通して本当に思考は解放されるのかについて、ゼミのディスカッションの場を借りてそれを実証しようとしたのである。このようにした理由として、「思考の解放」が何かについて考えるより、実際に参加する成員が「思考の解放」を体感する方がより有益であると考えたからである。また、体感すれば「思考の解放」が何か自ずと理解できると考えたからである。実証するために我々なりに「思考の解放」を定義して判断基準にする必要がある。そこで、今回はは二つの軸を用意した。一つ目は、インプットされた情報が整理されていること。整理されていれば、現実のビジネスに応用してアウトプットができると考えた。二つ目が、固定観念に縛られないということである。経験則などではなく、経営理論を軸に考えることが、まさに「解放」であると考えたからである。

 実際にディスカッションするために、便宜上軸となる経営理論を各ディシプリンから一つずつ抽出した。具体的には、7章取引費用理論、18章リーダーシップの理論、23章センスメイキング理論、27章ソーシャル・キャピタル理論、これらを採用して参加する学生に最低一つ事前に読んでおいてもらった。次に実際に話し合う現実のビジネスは現存する「日本電気株式会社(以下NEC)」を基に「株式会社ABC」という会社を用意した。基本的に使用したデータは日本電気株式会社の情報を利用したので詳しくはそちらを参照していただきたい。ちなみに名前を変えて提示した理由として、現実のNECの状態等に引っ張られずフラットな意見を引き出したかったからである。この企業のデータを基に「2020年コロナ禍における企業の取るべき戦術」について話し合ってもらった。そのために具体的な戦略として「新規事業を立ち上げること」を上げ、実際に立ち上げの仕方やその事業の運営や構成などについて話し合ってもらった。このマクロとミクロの視点における具体的な方便が戦術にあたるものだ。そして参加する成員はあくまでこの新規事業部の部長というある程度裁量権を持った立場から意見してもらった。そうすることで、多くの意見を引き出そうとした。

 今回のディスカッションでは、新規事業の立ち上げの仕方というマクロ的な視点、立ち上げた後の具体駅な運営方法やメンバーの選定やリーダーについてなどよりミクロな視点、これら二つの視点について話あってもらった。
 
 まず、マクロ的な視点として出た意見では新規事業の扱う製品や技術は自前で行うという意見が出た。大手IT会社ということ、生体認証といった特有の強みを保有していることから、自社で行える能力があるので特段外部に頼る必要はないとの判断である。一方、実際に使う顧客のホテル業界などの意見を聞くことなど外部の声については、取引費用理論を基に自社ですべて扱うには大きな取引コストがかかるので外部のネットワークを利用するべきであるという意見が出た。

 一方、ミクロ視点の中でとりわけ白熱したのが、少数精鋭で行うかたくさんの人的リソースと足並みをそろえて進めていくかである。後者はいわば人海戦術のように聞こえるが、大企業ならではの利点でもある。しかし、リーダーが統率を取れない、とりわけ重要となるビジョンの共有ができない、スピード感が損なわれるといったデメリットも指摘された。それに対して前者では、ビジョンの共有やスピード感が重要であるという。スピードとビジョンの共有は重要であり、センスメイキング理論やリーダーシップの理論を基に意見が展開された。また、事業部間の協業という観点から、ソーシャル・キャピタル理論でいわれるように高密度のメットワークの形成が必要であり、IT業界において高密度のネットワークを作ってその中で知見を共有するべきという意見が出た。

【まとめ】

 今回のディスカッションではあえてIT業界の大企業を扱った。日本の大企業の多くは成熟しきっており、とりわけ重要となるのがイノベーションの創出である。そのために多くの大企業で新規事業を作ることや、それを斡旋する制度を導入している。しかし、多くの大企業でそれがうまく機能していないことは本書でも言及されている。そこで特に問題となるのが、新規事業を立ち上げた後どうするかであると考えている。そのため今回のディスカッションでも、どちらかというとミクロ的な視点に重点を置くために時間を割いた。実際に今回のディスカッションから重要となる示唆は二つあったと考えられる。一つ目は、スピードとビジョンである。ビジョンの共有ができていることは成員の意思の疎通において重要であり、大企業であってもまずは少数精鋭で進めることの重要性が示唆された。二つ目が、他事業との連携である。大企業ならではの利点として技術力が高いことであるが、それぞれの事業部が独立しているばかりにその既存の知が活かされないのである。今回のディスカッションで、センスメイキング理論の視点、ソーシャル・キャピタル理論の視点からそれの重要性が説かれ、実際に高密度のネットワークの形成が必要である。ただし、今回のディスカッションではその際のリーダーシップの重要性や、事業部間の取引費用の低減についてあまり言及されなかった。これは今後特に実務的に求められる視点であろう。

 ところで実際に「思考の解放」はできていたのだろうか。我々の見解では達成できていたと考えられる。経営理論、とりわけディシプリンという多くの学生にとって異質であったものがしっかりセンスメーキングされ整理された上で、それを基に意見を出していたので我々の「思考の解放」の定義においては、達成できていたと考えられる。今後は今回扱った経営理論だけでなく他にも興味のある経営理論について理解を深めて、ビジネス等について、「解釈」または「センスメーキング」していくことが求められるだろう。

にしむら(4年)

センスメーキングインオーガニゼーション(第2章前半 pp22-59)

【要約】
 第2章では、観察者が用いるマニュアルや鍛え上げられた想像力のための手引きとして、センスメーキングの7つの特性について紹介している。今回は7つのうちの4つ目までを取り上げる。まず1つ目は、アイデンティティ構築に根付いたプロセスについてである。センスメーキングはセンスメーカーなくしては始まらない。センスメーカーとは、自分自身が進行中のパズルで再定義を繰り返し、その都度他者に対してある自己を提示し、いずれの自己が適切かを決定しようとしている存在のことを言う。自己の定義から状況が定義されることと同様に、状況の定義から自己が定義されることもよくある。これこそが、アイデンティティの確立と維持がセンスメーキングの中核的な前提となる理由である。

 2つ目は、回顧的プロセスについてである。回顧的センスメーキングとは、内省がなされる際に多数の異なるプロジェクトが進行しているために、多くの意味がありうるが、それらを統合する活動である。つまり、プロジェクトについての価値観・優先順位・明確さが必要であるということだ。回顧的センスメーキングは、最終結果に達するのを複雑にした因果連鎖の多くを消し去る。しかし、あるプロジェクトを完遂させたいとき、過去の不確定なものについて秩序を強調し、因果性を単純化するような読み間違えは、それが誤った歴史であろうとも、プロジェクトの遂行には効果的な行為をもたらしてくれるのだ。

 3つ目は、有意味な環境をイナクトするプロセスについてである。本書では、組織の生において自分の直面する環境の一部を自分が生み出しているという事実を強調するために、イナクトメントという言葉を用いている。つまり、行動はセンスメーキングにとって決定的に重要であるということだ。行動とは、“主体”そのものと“客体”そのものを関係づけることではなく、2つの活動を関係づけることである。プロセスについて理解が深まると、センスメーキングを研究する上でブレーキとなるものがあることに気づく。それは、存在論上のふらつきである。しかし、センスメーキングを研究する人は存在論上ふらつくもので、このふらつきこそが理解を促してくれるのだ。

 4つ目は、社会的プロセスについてである。センスメーキングは、個人レベルのものと思わせる響きがあるが、社会的プロセスであると言われている。なぜなら、個々人の思考・感情・行為は他者の存在によって影響されるからだ。私たちは他者との相互作用というコンテクストの中で新しい考えを生み出し、それを広範なコミュニティに伝達する。そのアイデアがコミュニティで存続し続けると、一般化され文化となるのだ。センスメーキングへの社会的影響は、単に物理的な存在から生じることだけでなく、想像上の存在から生じることを忘れてはならない。

【ディスカッション】
 第2章のセンスメーキングの特性3つ目の有意味な環境をイナクトするプロセスの中から、P.52L11では、「問題は信じるか信じないかとなる。なぜならそれが自己成就的行為を作動させるからである。信頼はセンスメーキングの媒介である。」と書かれている。つまり、センスメーキングにおいて問題を信頼すれば、自然と自己成就的行為を作動させることができるということだ。私たちはこのセンスメーキングのプロセスを、今年度の中野ゼミにおける選考を例に考えてみた。今年度の中野ゼミの選考におけるビジョンは「当事者意識をもってシェアードリーダーシップを発揮する組織」である。掲げたビジョンは、中野ゼミにとって必要なことである。また、ゼミ選考の話し合いにおいて全員の合意のもと決定されたので、ビジョンに対して疑いのある人はいない。したがって、ゼミ生はこのビジョンを信じているため、ビジョン達成に向けた行動ができるはずであると考えた。しかし、事前にアンケートを取ると、リーダーシップを発揮できていないと回答する人が多く、ビジョンを信じていても行動に現れていなかった。

このことから、「当事者意識をもってシェアードリーダーシップを発揮する組織」という内容を信じるだけでは、ゼミ生が自己成就的行動を起こすのに不十分であると考えた。そこで、ディスカッションポイントを「どのような内容を信じれば、シェアードリーダーシップを発揮した組織になるために、中野ゼミ生は自己成就的行為を作動できるのか」に設定した。今回の議論において、「シェアードリーダーシップを発揮した組織」というのは、自分が与えられた役職にとらわれることなく、時には全員が自分の強みを活かして他者(複数名)に働きかける状態のことと定義した。具体的な例としては、積極的に意見を出して議論を引っ張る、議論が錯綜したときに議論を回す、ゼミ生にアドバイスする、コミュニケーションを促す、ゼミ生を正すなどが挙げられる。

まず初めに、どのようなことを信じれば良いのか、信じる内容について議論を行なった。事前にアンケートを取った際に、現状行動を起こせていない理由として挙げられていた、「帰属意識を持てていないから」「理想と現実にギャップを感じているから」「他人任せになってしまっているから」「発揮する場面がないから」を解決できるように意見を出してもらった。「帰属意識を持てていないから」を解決できるものとして、ゼミを好きになることや、飲み会などに誘ったらみんな来てくれると信じることが挙げられた。「理想と現実にギャップを感じているから」に関しては、議論を発展させるとゼミにとって良いと信じることや、自分がリーダーシップを発揮したら、みんなも自分の背中を見てやってくれると信じるなどの意見が出た。「他人任せになってしまっているから」では、自分の意見は組織の議論の活性化に役立つと信じる、シェアードリーダーシップを発揮できていない組織はよくないということを信じる、自分の意見は組織の議論の活性化に役立つと信じるなどが挙げられた。「発揮する場面がないから」に関しては、小さな発言でも議論の活性化に役立つと信じれば良いのではないかという意見が出た。他にも、ゼミ生を正すために、自分は絶対にミスをしないということを信じると言う意見も挙げられた。ゼミ生に信じる内容を挙げてもらうと、ゼミ中の議論の場についての意見が多かった。ゼミの議論をもっと盛り上げたいと思っている人が多いから、このような意見がたくさん出るのではないかと感じた。

続いて、たくさん挙げてもらった信じる内容について、「11月20日のゼミ選考まで(あと2回のゼミ)に信じられるものはどのようなものか」という時間的制約をつけてさらに議論を深めた。もちろん上記に挙げられた内容全てを信じることができたら良いが、現実的に短期間で全てを信じることは難しいと考える。そのため、自分は絶対にミスをしないことを短期間で信じるのは難しいのではないかという意見が出た。理由としては、逆に気を張ってしまってミスするのではないかというものだった。他にも、議論が錯綜したときやゼミが長時間になっているときに、切り込んで発言することによって周りの人も意見を言いやすくなると信じるというのは、長期間経験や自信をつけていかないと難しいのではないかという議論にもなった。逆に、シェアードリーダーシップを発揮できていない組織はよくないということを信じるのは、ゼミ生全員が今すぐにでも信じられるものではないかという意見が出た。また、議論が錯綜したときに切り込んでいくことは難しいけれど、自分の1つ1つの意見が議論の活性化に役立つと信じることはできるのではないかというゼミ生もいた。他にも、議論を発展させるとゼミにとって良いと信じることは、長時間のゼミに対して意味を持たせることに繋がるため、短期間でも実現可能性があるのではないかという声も挙がった。

【まとめ】
 今回は、「どのような内容を信じれば、シェアードリーダーシップを発揮した組織になるために、中野ゼミ生は自己成就的行為を作動できるのか」というディスカッションポイントのもと、信じる内容について議論を行なった。信じる内容についての意見は様々出たが、11月20日のゼミ選考までという時間的制約をつけると、出てきた意見全てをゼミ生が信じることは現実的に難しいことが議論によって明らかになっていった。その結果、中野ゼミにおいてシェアードリーダーシップを発揮した組織になるためには、「シェアードリーダーシップを発揮できない組織はよくないこと」「小さな発言でも議論の活性化に役立つ」「議論を発展させるとゼミにとって良い」の3つを信じれば、自己成就的行為を作動できるという結論に至った。この3つの信じる内容が、今回のディスカッションポイントのアンサーになる。

 議論を通じて、中野ゼミが目指している組織はどのようなものなのか、目指すビジョンを達成するためにはどのようなことを信じれば良いのか、再確認できたように思う。ゼミ選考の始まる約1ヶ月という期間の中で、ゼミ生皆が今回導き出した3つの内容を信じ、シェアードリーダーシップを発揮した組織を作っていくための行動を起こしていく必要がある。いや、今回議論した内容を信頼すれば、自然と行動は起こせていけるはずだ。この議論をきっかけに、中野ゼミがより良い組織となることを切に願う。

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